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第67話 ワクワクしている。
文化祭かぁ。
すごいのかな。
賑やかなんだろうなぁ。
五月の終わりに金曜日から土曜、日曜ってやるんだって。
和磨くんがライブをするのが日曜日。最終日、きっと一番盛り上がる。
土曜日はお笑い芸人の人のコントがあったりダンスパフォーマンスとかもあるんだって。
そっちは……いいかな……うん。そもそも今も部屋にテレビのない僕はお笑い芸人の人もちょっとわからなくて。とても申し訳ないけれど「そうなんですね」と思うだけ。
でも、お笑い芸人の人も、ダンスのパフォーマンスもきっとみんな楽しみにしていると思うし。頑張って欲しいとは思います。
ただ、僕が楽しみなのは、日曜日、というだけのことで。
天気良いかな。
まだ少し先のことだけど。
暑いかな。
お天気良いといいな。屋外ライブするのは、その高校生の時の路上ライブ以来だって言ってた。その話をしている時の和磨くんは楽しそうにしていた。だから、晴れたらいいなぁって。
晴れたら、うん、やっぱり暑いよね。
夏服、良さそうなのあるかな。
大学生の中に僕がいたんじゃ、浮いちゃいそうだよね。ちょっと気まずいけど。
ほら、ホームページ検索してみたら、大学生が楽しそうにしている写真がずらりと出てきた。屋台とかも出るみたいだ。すごい、本当にお祭りだ。
楽しみだな。
日曜日。
「……」
にち、よう……。
「あ!」
思わず、声が出てしまった。
一人で、図書館のスタッフ用休憩室で、ワクワクしながら招待してもらえた和磨くんの大学で行われる文化祭のホームページを眺めながら。
日曜、だ。
「えっと」
控え室の掲示板には全スタッフのシフト表が貼り出されている。機械の導入のおかげで僕ら司書のやる仕事は随分減ってくれたのだけれど、その分、今度は休みが急に出てしまうと、たった一名でも人員不足となってしまったりもして。配架とか、どうしても今の段階では人間がやったほうがスムーズな業務に関しては、その欠員がすごく響いたりもする、わけで。
日曜なんて、シフト、事前申告してなければ休みになってるわけがない。
でも、和磨くんがライブするのは日曜日だから。
「……」
どうしよう。早番が入ってる。
でも、早番だからすごく急げば、和磨くんが歌うのだけは見られたり……しないよね。
どうしよう。
休み。
「どうしたの?」
「! あ……近藤さん」
「? シフト?」
「あ……うん。僕、この日」
「日曜日?」
そう、日曜日。
「私、代わってあげようか?」
「えぇ?」
僕の驚き混じりの返事に近藤さんが目を丸くして、それから、その日曜日の辺りを指差した。
ここでしょう? と、言いながら
「いいよ。全然、この日に小説フロアのカウンター業務担当すればいいよね? 児童書コーナー……あ、主任だ。じゃあ、なおさら大丈夫だよ。近藤、オーケーですって主任に言ってもらえれば。シフト調節も主任でしょ?」
「あ、の」
いいの?
「いいよいいよ。別に、主任だからそれこそ私いなくても業務滞らないよ」
「あ、ありがとうっ」
「いえいえ」
「本当に」
「いえいえ」
本当に本当にありがとう。
近藤さんはまたニコッと笑いながら「いえいえ」とだけ言ってくれた。
「いつも椎名くん、土日ほぼ出てくれてるでしょ? 色々助かってるし。たまには逆にお助けしますよ」
「そんな」
「有休もたくさん溜まっちゃってるでしょ?」
「あ、いやっ、そんな」
僕は特に用事がなかったから、土日でも構わずシフト入れてもらっていただけで。
有休だって、本当に、取っても取らなくても、本は読めるから別に気にしてなかったんだ。ただ年間で取らないといけない日数が決まっていたからというだけで。
でも本当に助かった。
「でも、ありがとう」
「いえいえ」
これで行ける。
「いえいえ」
和磨くんのライブ、見に行ける。
まだ少しだけ先なのに、でも、もう楽しみで。
「そ、それじゃあ、あの、僕、主任に頼んでくるので」
「はーい、って、今?」
「あ、うん」
「休憩終わってからにしたらいいのに」
「ううん」
ありがとう、と、もう一度お礼を伝えてからスタッフ控室を飛び出した。
早くシフト調節してもらいたいんだ。
「あ!」
それから少し、文化祭までちょうど一週間というところで、プログラムの発表があった。
金曜日、土曜日。
その次、最終日が、日曜日。
ライブは特設ステージのところ。
ほぼ毎日和磨くんの大学のホームページを眺めていた。調べるというより、楽しみで、じっと見てた。
和磨くんのライブ、コンサートなんて、きっととても素敵に違いないから。
その大学の文化祭の日程、プログラムが今日は追記されている。
オオカミサン、ライブ、本当の本当にラスト、おおとりなんだ。午後の特設ステージ行われるラストにその名前を見つけた。
「わぁ」
今日も練習って言った。リハーサルって。
楽しそうだった。
僕も楽しそうな和磨くんにつられて、なんだか楽しかった。
「……よかった」
毎日、眺めていたんだ。
文化祭のホームページ。
それからもうひとつ。
まるで日課みたいに。
「日曜日、晴れる」
十日間天気予報のチェック。その日のところには今日もちゃんと晴れの太陽マークがくっついている。
僕には、なんだか他の晴れマークよりも少しだけ大きく見えた。
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