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第91話 とろとろ

「ごめん。マジでシャワー、先に、佑久さん」  こんな気持ちになったの初めてなんだ。 「ぁ」 「お湯、バスタブに」  誰かのこと、独り占めしたいなんて。 「ぁ……の」  今まで誰にもそんなこと思ったことない。  和磨くんのことを好きな人はたくさんいる。  和磨くんに夢中な人だって、きっといる。  でも、僕がきっと、一番、彼に夢中だって。 「一緒にシャワー浴びたら、ダメ、ですか?」  自信、あるよ。 「和磨くんが頑張ってるの、すごく応援してる。打ち合わせとかボイストレーニングとかで忙しいのを離れながら応援、してます。すごく。でも、会いたかった、から、今」 「……佑久、さん」  僕が一番、君を好き。 「できるだけ、離れたく」  君が好き。 「ない……です」  たまらなく、君が好き。  いつも一緒にいて、なんて思ってない。大学頑張って欲しいし、歌も頑張って欲しい。今だけ。  今こうして会えている間だけ、だから、どこかしらでいいから、指先だけでもいいから、和磨くんと繋がっていたい。  離れたくない。  ちょっとでも、いやで、その服の端をキュッと指で掴んだまま、お風呂も一緒に入りたいって駄々を捏ねた。 「ね、佑久さんが、俺の洗って」 「ん、わかっ、あ、ひぅっ、ンっ」 「いっつも敏感だけど、今日はいつもより敏感? キスでイクくらいだったし」 「う、ん」  すごくすごく感じやすくなってるって自分でわかる。 「そのせいかな。感度、関係あんのかも。キスマ、すっごい簡単に付くんだけど」 「そう、なの?」  確かにたくさん和磨くんがキスをしてくれる。首筋にも、胸にも。僕はその度に飛び跳ねてしまって、何度か和磨くんの鼻先とぶつかってしまったんだ。  簡単に付くのなら、今してくれたキスの分、全部が肌に痕として残ってるのかな。見た――。 「まだ見ちゃダメ」 「?」  見たい。そう思ってシャワーを手に取った。  バスルームの中にある大きな鏡。  今は湯気で全て曇って見えなくなっているけれど、お湯をかけて、見えるようにしようと思った。けれど、シャワーを握った手は和磨くんの手に捕まって、鏡ではなく僕と和磨くんの間、泡だらけになっていた肌に、それから、互いのに、かけられてしまった。 「あっ」 「後で。し終わったら見よ? 今見て、もうキスマつけちゃダメって言われたらヤだから」 「ぇ?」 「……ね、佑久さん」 「?」 「佑久さんの全身にキスマ付けたいって言ったら引く?」  くるりと体勢を入れ替えられて、向かい合っていた僕らは今度は、僕が和磨くんへ背中を向けるように身体が重なった。 「ひゃ」  肩に、キスされても気持ちいい。 「あ、ン」  首筋はもっと気持ちいい。 「あ、あっ」 「佑久さん」  今、触れたところ全部にキスマーク、ついたかな。和磨くんの唇が触れた痕。和磨くんがキスをした痕。 「引、かない」  付いたなら、嬉しいから、あまり邪魔をしないように。キスマークをつけてくれる邪魔にならないように壁に手をついて、できるだけ、触れられる度に飛び跳ねてしまわないようにしながら振り返った。 「嬉し、ぃ……よ」  きっと本当に今日の僕は感じやすいんだ。 「ね、佑久さん」 「ぅ、ん」  触れられるとそれだけでどうにかなっちゃいそうなくらい。 「ベッド、行きたい」 「う、ん」  ほら、目が合うだけで、お腹が、身体の奥がギュッてした。熱くなって、喉がなんだか乾いてた。 「全部、舐めたい」  ドキドキしてる。 「いいっ、よ……あっ!」  四つん這いになったら、和磨くんの大きな手が僕のお尻を力強く掴んで、そのまま、まだ解れてないそこにキスをした。 「あ、あ、あ、でも、そこは、ダメ、そんなとこ、ひゃうっ」  ちゅう、って吸われて、つま先がキュッと力を込めてしまう。そんなとこ、和磨くんみたいな人がキスをしたらいけないのに。 「ヤバ」 「あ、あ、ン」 「佑久さんの前、トロトロ」 「ひゃあっ、ぅ」  ほぐれる前のそこにキスをされながら、前を握られて、電気みたいなビリビリとした刺激がつま先まで駆け抜ける。 「あ、ダメっ、和磨くんっ」  すごくゾクゾクする。 「あ、あ、あ」  恥ずかしいところを全部見られてる。  こんな格好で。  こんなカッコよくて素敵な人にこんなこと、してもらってる。  ベッドに手をついて、その自分の手の甲に顔を乗せ、ちらりと後ろを振り返ると、僕の背後に座っている和磨くんと目が合ってしまった。  たまらなく、恥ずかしい。  でも、すごく嬉しくてたまらない。 「ね、佑久さん」 「?」 「一人でしなかったの?」 「?」 「えっちなこと」 「!」 「ここ、締め付けすごい」  言いながら、和磨くんの舌の柔らかく濡れた感触をそこで感じて、お腹の奥がまたキュッと切なくなった。 「しない、よ」  なんで? って、和磨くんの優しい目が訊いてくる。お尻を掴んでる指先がちょっとだけ肌に食い込んで、それだけで感じて。 「和磨くん、と、したいから」 「……」 「あっ、ぁ、指っ」  濡れたそこに和磨くんの指が入ってくる。 「そ、れに、和磨くん、と、したく、なるので、しない」  欲しいのは気持ちいいことじゃなくて。 「佑久さん」 「ぅ、ん」 「挿れて、い?」  欲しいのは。 「う……ん。僕も、挿れて、欲し……ぃ」  君なんだ。

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