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第93話 君と迎える朝

 パチって、まるでスイッチをオンにしたみたいに、目が覚めた。 「……」  僕、昨日、和磨くんの部屋に泊まって。 「……」  わ。裸で寝てしまった。 「!」  和磨くんも、多分、裸、だ。上は裸。下は。 「……」  ちょっとわからない。抱き締められてる、というか僕の裸の腰の辺りに和磨くんの腕が乗っかっていて。逆に僕の頭は和磨くんの腕に乗っかっていて、少しでも身じろいだら和磨くんを起こしてしまいそうで。  裸のまま、服も着ずに寝てしまった。  あ、でも、肌はベトベトしてない。 「…………」  え、えぇ……えぇ、え。  僕、身体拭いてもらってしまった……よね。あんまり覚えてないんだ。なんだかふわふわしていて。  昨日。  ――あ、奥、そこ、イっちゃうっ。  昨日。  ――挿れ……て。  昨日。  ――くっついて、たい。 「……」  ――離したく、ない、です。 「っ」  わあああああああ。思い出したら、顔から火拭きそうだ。ものすごく恥ずかしい。昨日の僕、ちょっと、恥ずかしすぎる。和磨くんに会えたのがたまらなく嬉しくて、収まらなくなっちゃったんだ。  その、なんだか、すごく、盛り上がってしまって。  あんなこともこんなことも、大胆すぎて、思い出すだけで、ぷすぷすって思考回路が茹ってしまいそう。  変じゃなかったかな。  いや、変だったでしょう。  す。す。  ――好き。和磨くんっ、イッちゃう。  すごすぎる。最後の方、大変なことになってたし。だからお風呂入れなかったくらいだし。  あぁ、なんてこ……。 「?」  僕を抱き締めている和磨くんの、の、首の、とこ。 「? ……?」  赤い、けど。  引っ掻き……。  ――掴まっててよ。佑久さん。  ひ。  ひえええええええ。  僕がしがみついた痕? だったりする? 怪我させちゃってる。どうしよう。背中、もっと? 僕しがみついたの覚えてるもの。たくさん、和磨くんにしてもらおうとずっとしがみついて離れなかったの。だから、もしかしたら背中には、もっと。  どうしよう。  大事な和磨くんの身体に僕はなんてことを。  キズ、つけちゃったなんて。 「ぷくくくく」 「! 和磨くん?」 「……おはよ。佑久さん」 「!」  和磨くんが笑ってた。笑って、自分の肩に頬を乗せるように首を傾げた。 「起き、」 「佑久さんが起きたところで起きたよ」  今? 僕と同じに? 「寝たふりして見てた」  えぇっ! 「びっくりしたり、真っ赤になったりして可愛いし。と思ったら、すっげぇビビった顔したから流石に声かけようと思って」  だって。 「背中、平気だよ。つか。佑久さん、自分の裸の方がやばいよ。見にいく?」 「え? あ、待っ」 「タオルケットでいいっしょ。抱っこする」 「え、大丈夫」 「平気。佑久さんほっそくって軽いから」 「ひゃ! わ!」  グルンと世界が回転した。  僕は慌てたけれど、和磨くんにタオルケットで包まれて抱っこされてしまったから、暴れないようにじっとした。 「ほら」 「!」  歩いて数歩。洗面所に移動した僕はそこでマットの上に立たされて、全身が。 「わ……」 「やりすぎ感すごいでしょ」 「……」  あっちにもこっちにも赤い印がついてた。 「……」 「ごめんね。夏で暑いのに」  君がくれた、君の痕跡。 「ううん……嬉しいよ 「佑久さん……」 「すごくドキドキして、嬉しい」 「……」 「すごい、たくさんつけてもらったんだ」  僕は途中で君にしてもらうことに夢中になりすぎて、どこにどれだけつけてもらえたのかわからなくなったけれど。 「ふふ」  こんなにつけてもらったんだね。 「……なんでキスマこんなに付けられて、嬉しそうかな、ホント」 「だって」  嬉しいよ。嬉しいに決まってる。  君がくれるものならなんだって、嬉しいよ。 「まぁ、わかるけど」 「?」  和磨くんが僕の肩に顎を乗せて、ニヤリと笑った。どうだ、と自分の宝物を見せびらかす子どもみたいな顔をして。 「俺も、佑久さんが背中にしがみついた痕、すげぇニヤけるし」 「え!」 「こんだけ、この人、俺にしがみついてたんだーっつって」  つって、って。それは、ちょっと、あの。 「え、僕、そんなにたくさん?」  その問いに笑顔だけでしか答えてくれない。 「ちょっ、あの、消毒っ、爪って雑菌いっぱいだからっ」 「へーき」 「平気じゃなくてっ」 「だいじょーぶ」  大丈夫じゃなくて。なのに和磨くんは僕を後ろから抱き締めたまま、笑っているばかりで。身体を捻って背中を見たいけれど、肩のところにキスをされていて、それを払いのけるなんてこと、僕にはできそうにないし。 「ね、佑久さん」  嬉しそうに笑っている場合じゃないのに。 「俺、佑久さんのおかげで歌うの楽しいって思い出せたよ」  肩に鼻先を埋めながら、本当に嬉しそうに楽しそうに笑っていた。 「貴方がいたら、俺は頑張れる」 「……」 「絶対に、俺の歌を楽しみに待っててくれる佑久さんがいるから」 「そんなの」  君の歌を待ち焦がれている人ならたくさんいる。 「当たり前だよ」  けれど、僕が一番、君の歌を待ち焦がれてるよ。本当に、本当だ。 「だって、和磨くんの歌で僕の世界は変わったんだから」  音がして、僕の鼓動が踊り出すんだ。じっと本だけを見つめていた視線は空を見上げて。太陽が眩しくて笑ったような顔になる。あっちに飛び出して、こっちに駆け出して。  僕は君と出会ってから毎日が目まぐるしくて、とても新鮮なんだ。 「ね……佑久さん」 「?」 「俺の処女作、聴く?」 「……ぇ?」 「言ったじゃん。動画にもしてない、高校の時の路上ライブ」  言ってた。 「あれ、オリジナル歌ったんだ」  あの時、君はとても照れくさそうに笑っていた。 「才能なさすぎるし、歌詞とか思いつかなくてメロディラインだけなんだけど」 「……」 「佑久さんにだけ、聴かせたい……かも」 「! き、聴く! 聴きたい! すごく、聴きたい!」 「…………あはっ」  飛び上がるように僕が返事をすると、君は、僕の肩に鼻先を埋めながら、本当に嬉しそうに、本当に楽しそうに。 「佑久さん、すげぇ元気」  本当に幸せそうに、笑っていた。

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