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第121話 欲しがりなんだ。
ベッドの上、二人で寝転がってキスをすると、気持ちがあったかくなっていくのを感じた。
「ん」
そばにいて、手が届く。それがすごく嬉しい。
「和磨くん……」
自分の声、だけれど、こんなに優しく聞こえるんだって、少し感動した。
僕は自分の声が好きじゃなかったけれど、君の名前を呼ぶ時の自分の声は好きだよ。
「佑久さん」
「ン……ん」
「やっば、キスでもうヤバいんだけど」
ボソボソしていて、聞き取りづらくて、いつだって僕のことも、その場で僕と会話をしている相手にことも困らせてしまう自分の声が好きじゃなかったのに。
「イきそ……」
「ン、ぁ……ホント?」
和磨くんが「うん」って苦笑いをしながら答えてくれた。
キスの合間にそっと尋ねたら、すぐそこ、唇は離れたけれど、どこかしらをくっつけてないとダメみたいに、額だけはくっつけたまま。
「佑久さん、キス止めるとすげぇ可愛い顔すんの」
「ふふ」
僕は自分の顔も好きじゃなかったよ。
「そこで笑う?」
無表情で、いつだって、どんなに楽しんでいる時だって、つまらないんだろう? と言われてしまう、下手で不器用な自分のそういうところ、ちっとも好きじゃなかったのに。
「和磨くんが可愛いって言ってくれたの、嬉しいなぁ……って」
今はちょっと好き。
「あのねー、もおっ、マジでさ」
「?」
すごいことだと思うんだ。
僕は自分のこと好きじゃなかったのに。君が好きになってくれた僕を僕は好きだなぁって思うんだ。
「佑久さん」
「?」
「今日は全部、俺がするから」
「え? なん、」
「なんで、はなし。ダメ、もなし。今日は、めちゃくちゃ佑久さんをとろっとろにする」
「ぁ……ふ……っ、あっ」
僕の手に和磨くんの手が重なった。
「いっちばん」
手、温かい。
「幸せにする」
ねぇ、和磨くん。
「だから、佑久さんは俺にしがみついてて」
「……ぁ」
それならもう、僕は一番幸せになってるよ。
つい、数時間前まで彼はたくさんの人を魅了してたんだ。観客数一万人って、若葉さんが言ってた。本当にすごい人の数だった。地上であの一万人の人の中にいると、目が回ってしまいそうなくらい、ぐるりと見渡しても人しかいなくて。年齢も性別もバラバラだったよ? そのくらいに大勢が和磨くんを見てた。そんなに大勢の人が君の歌を聴いていた。拍手をしていた。
「俺にだけ、しがみついて」
本当なら僕のこの手は届くはずのない人なのに。
「う、ん」
どんなにつま先立ちをしても、手をいっぱいに伸ばしても、ほんの指先だって触れられないはずなのに。
「しがみ、ついてます」
僕の手が届くように背中を丸めてくれるんだ。
僕の腕がしがみつきやすいように、首を傾げてくれるんだ。
そんなの、離さないに決まってるでしょう?
「和磨くんに、くっついて、ます」
そんなの。
「ぎゅって、してます」
しがみついて離れないに決まってる、よ。
「あっ……もっ、ひゃあっ、ぅ」
気持ち良過ぎて、つま先までギュッと勝手に力が入る。
「俺の指、気持ちい?」
コクン、って二回も頷いたら、クスッと笑って、さっきから言葉にならない甲高い声ばかり発する僕にキスをしてくれた。
唇に、軽く触れてから、耳にもキスをして、頬、それから首筋、肩って。いくつもいくつもキスをしてくれる。たまに、チリリと肌に刺激を感じる。きっとその時は君が僕に印をつけてくれていると思う。
キスのマーク。
君のキスが僕に触れた場所。
「ひゃっ」
胸にその印をつけてもらえると気持ち良くてたまらなかった。
「あ、あ、あっ」
優しく唇で触れられると、気持ちがふわふわしてくる。
強く吸ってもらえると、つま先まできゅっとなる。
指で弾かれると、なんだか切なくて。
気持ち良くて、溶けてしまいそう。
指で中を撫でられながら、肌にいくつもキスをしてもらえてるなんて、おかしくなってしまいそう。
「佑久さんの中、すげぇ、きつい」
「ひっ、ぅっ……ン」
「俺の、入らなそ」
「や、ぁ」
思わず、和磨くんが僕を押し潰してしまわないようにって自分を支えてる腕にしがみついた。
「入る、よっ、ずっと、あっ、ひゃぁ、ぅっ……そこ、触ってない、から、初めての時みたいに、なってる、だけ」
やだよ。指もすごく気持ちいいけれど、指でも嬉しいけれど、でも、僕は案外快楽事には貪欲なんだ。読みたい本があったら、読むのなんて止めらなくて夜更かしして、日中は仕事の時にあくびをしてしまうくらいに、欲望には抗えないんだ。だから、やめないで。
「和磨、くっ……ン」
君のこと、欲しい。
「っ、佑久さん」
欲しい、です。
「和磨くんっ、も、平気」
「平気じゃないでしょ。まだ、ちゃんと」
「平気」
僕は案外強欲なんだよ?
「ここ……」
僕は君が思っているよりも、欲張りだし。したいことに素直なんだ。
「ここ、に……」
ごうつくばり、なんだ。だから、君が覆い被さってくれる腕の中で、ゆっくりとうつ伏せになって、後ろを向いた。それから、少しだけお尻を高くして、君の硬くなってるのに、自分からお尻を押し付けた。
「和磨くん」
手を後ろに伸ばして、触れたら、熱かった。
硬くて、張り詰めてた。
「欲しい、よ」
僕はそれをねだるように今度はその手で、お尻を持って、そんなことを言ったんだ。
きっと顔は真っ赤だったと思う。
君のことたくさんちゃんと誘惑したくて、恥ずかしくてたまらなかったけれど、振り返って、君を見つめながら言ったんだ。
「和磨くん……」
君を好きになったら好きになれたこの声で、この顔で、欲しいですって言ったんだ。
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