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メリークリスマス編 5 いつだって、どこだって、君となら

「お鍋、すごく美味しかったです」 「よかった。これ、この前、若葉のとこで髪、やってもらってた時に教わったんだ」 「そうなんだ」 「肌ツヤツヤになるよっつってた」  わ、それは嬉しい。僕でもツヤツヤになるのかな。なれたらいいな。だって、そしたら、ちょっと多めに和磨くんがほっぺたに触ってくれるかもしれない。  なんて、邪なことを考えてしまった。 「けど、佑久はそもそも肌ツヤツヤだから、あんま意味ないけどね」 「!」  和磨くんが笑いながら、食器を洗う途中で両手塞がっているから、身体だけを上手に捻って、僕の頬へとキスをしてくれた。  触れてくれた唇から僕の邪な、触れて欲しいっていう願望が伝わってしまわないかと、もしも伝わってしまったら、ついさっき、あんなに触れ合ったばかりなのに、なんて欲張りなんだってなりそうで、頬が熱くなった。 「はい。佑久、お鍋、重いから気をつけて」 「う、うん」  洗い終わった大きな土鍋を受け取った。  ほんのりと桜色をした土鍋はついこの間、二人で選んで買った。冬だもの。鍋をしたいねって話をして、一緒にデートの最中に買ったんだ。買ったはいいけれど、重くて、かさばるから、持ち歩くのには不向きで、お外デートを早々に切り上げて帰宅して。  失敗したね。デートの最後に買えばよかった。  そう言って二人で笑ってしまった。この日、僕らは初二人で鍋をすることにはしゃいでた。  一人で暮らしていた時はお鍋なんてすることなかった。  当番は決めていないけれど、和磨くんの方がお皿洗いをしてくれることが多い。泡だらけになった手元で泡だらけになった僕らのおそろいの食器たち。キュキュって音がするくらい綺麗なったそれらを僕が受け取って、タオルで拭くと、今日もお勤めご苦労様ですって、棚にしまっていく。ありきたりな日々の家事。けれど、ずっと一人暮らしだった僕は、それを二人で、こうしておしゃべりをしながらできるのがとても楽しい。一人でしていると、とっても億劫なんだ。食器洗い。 「あのさ」 「?」 「次、佑久の知り合いに会ったら……さ」  鍋を二人で食べるのも。  その鍋を一緒に買いに行くのも。  すごくすごく楽しい。  和磨くんに出会ったのは春だった。その後、夏が来て、青空の下であっという間に乾く洗濯物にすらはしゃいで、秋は読書の秋だねって二人で夜更かしをして、冬が来た。  僕らの初めての冬。 「?」  知り合いに会ったら? そこで、話を止めた和磨くんに首を傾げると、口をキュッと真一文字に結んでから、僕に小さく笑った。 「佑久、俺のこと」 「うん?」 「あー、いや、その、なんていうか、佑久の知り合いってきっと俺の知り合いと違って、なんつうか、真面目そうっつうか。あ、いや、そういうのでカテゴリー分けとかしたくないし、真面目だからって、男同士をどうのとかないと思うんだけど」 「……」 「その」  和磨くんがモゴモゴしてる。 「いや、いいんだけど。別に、佑久が」 「……あの、もしかして、僕の知り合いに会った時に、和磨くんのこと」 「! いや、いいよっ」 「僕もう図書館の、近藤さんに和磨くんのこと話したよ。付き合ってるって」 「え、ええええええっ?」 「話してあるよ?」 「は…………マジで?」 「うん」  和磨くんが真っ赤になった。 「え、いつ」 「和磨くんと一緒に暮らすってなった時」 「はい? マジで? そんな頃に?」 「うん」  今度はまた口をぎゅっと真一文字にした。 「近藤さんがよろしくって言ってましたって伝えたでしょ?」 「そ、そうだけど、友達、として、だと」 「ううん、彼氏、って」 「…………」  それよりも前に近藤さんは知っていたようだけれど。隠してたのが楽しかったって言っていた。すごいよね。僕はそんなに思っていることとかちゃんと顔に出せないはずなのに。ずっと楽しいことをしていても、嬉しいと思っていても、その逆に捉えられてしまうばかりだったのに。  相手が君だからなのかな。 「ね、佑久」 「?」 「今のもう一回」 「?」 「俺のこと」 「……彼氏」 「…………はぁ」 「?」  今度は、俯いてしまった。銀色の髪は、すぐにパサついてしまうらしくて、僕は全くそう思わないけれど、でも、トリートメントを若葉さんのところで染め直した後はしてもらう。すると、確かにいつも以上にサラサラになって、すごく綺麗で。その銀色の絹糸みたいになった髪で目元が隠れてしまった。 「佑久が言う彼氏って単語、なんか、破壊力ハンパないよね」 「えっ」 「なんか重みが」 「えぇっ」  それはなんだか申し訳が。重かったかな。 「嬉しくて、ヤバい」 「!」  顔を上げたら、キラキラした笑顔だった。 「ふふ」  和磨くんが笑ってくれたから、僕も笑った。  億劫で仕方なかった食器洗いすら、君となら楽しい。春に出会えた僕らは、夏を過ごして、秋を一緒に過ごして。 「ちょ、そこでそんな可愛く笑わないでよ」 「ふふっ」  今は、君の困った顔が見られたことにはしゃいでる。 「さっき、したばっかなのにさ」 「?」 「またしたくなるじゃん」 「!」  そして、僕は君と過ごす初めての冬にワクワクしている。

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