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メリークリスマス編 8 キラキラピカピカ

 十二月になると街はあっちこっちでクリスマスのイルミネーションが輝き始める。そうすると、昼間の明るいうちの方がなんだか寒そうで、夜、ライトが点灯し始めたくらいの頃の方が暖かく感じられる。  キラキラ。  ピカピカ。  それは街中だけじゃなくて。 「はーい、それでは、絵本の読み聞かせの後はみんなでちょっとしたハンドメイドをしましょう」  子どもたちの笑った顔とか、声も、なんだか、キラキラ、ピカピカ。  そして近藤さんの元気な声に、子どもたちが弾けた笑顔を向けて、ぴょんぴょん飛び跳ねた。  今日は図書館で自由参加型の読み聞かせ会が行われてた。週末、土曜日、午前に一回、午後に二回、図書館に入る手前にある会議室のようなフリースペースのところで。  飾りつけや企画は児童担当の近藤さんたちが主体になって、あとは数名がお手伝いしてとして参加する。  以前なら、僕はもちろん参加しなかった。去年も僕は参加していないし、その前の年も。人付き合いが苦手な僕が、子どもたちの相手なんてできるわけがないと、ずっと不参加だったけど。  今年、初めて参加した。 「じゃ、じゃあ、えっと、まず、好きな形の袋を選んでください」 「はーい!」  僕の何倍も大ボリュームで元気な返事の声に気押されながら、おずおずと、長テーブルの前に、白い布の袋を並べた。  とてもシンプルな、小さな子どもでもできる工作。  巾着袋。手提げふくろの大きいもの、小さいもの。それから水筒とかペットボトルを入れたらちょうど良さそうな細長い袋。  そこに行くつも用意しておいた、色々なスタンプを布用のインクを使って、押していく。  ただそれだけの創作だけれど。小さな子にはこれでも十分ハンドメイドだと思うし。近藤さんと、他の児童担当の人たちと色々考えてこれにした。 「はいはーい、みんな、お兄さんのところに並んで、一人一枚、袋を選んでくださいねー!」 「はーい!」  お、お兄さん、って、僕、だよね。 「わたし、これー」 「あ、す、素敵だね」  ぼくに差し出して見せてくれた女の子にそう返事をすると、頬を真っ赤にして笑顔を向けてくれた。 「ねー、本のお兄さーん」 「は、はいっ」 「俺、こっちー」 「あ、うん、ど、どうぞ」  上履き入れるんだって言ってたけど、どう、かな。片方なら入るかもしれないけど、両足の、となるとペットボトルとか水筒に向いてるその長細いのじゃ無理な気がするよ。でも、それを言ったら、悲しくなっちゃうかな。じゃあ、もう一枚、を。あぁ、けれど、それをしたら不平等だよね。  えっと、えっと。 「ほーい、上履き入れるなら、こっちじゃね?」 「!」  わ。 「わ、すげー銀色ー」 「かっけぇだろ」 「かっけー」  キラキラ。 「でも、真っ黒な髪もかっけーけど」  ピカピカ。 「ほら、あのおにーさんも素敵じゃん?」  その男の子は銀色の髪のかっこいいお兄さんに教えてもらった一番大きな袋を優しく手に取ると僕へと、素敵な笑顔と一緒に向けてくれた。 「はい。素敵なバッグになりますように。好きな席に座ってください」 「はーい!」  男の子は布の袋を両手でピーンと張りながら持ったまま、空いている席へと座った。 「こんにちは」 「こ、こんにち、は」  和磨くんだ。 「これって年齢制限ってあります?」 「あ、えっと」  わ。なんだか、敬語、ドキドキする。  一応、他の人もいるからかな。そうしてくれてる。僕はきっと真っ赤になりながら、コクコク頷いてるばかり。だって、和磨くんが来てくれるとは思ってなかったから。今日は、クリスマスイベントがありますって話はしてあったけれど、でも、「そっか。頑張ってね」って言ってただけだったから、来るなんて。  びっくりと嬉しいが一緒に来ちゃって、言葉が詰まってしまうよ。 「参加しても大丈夫すか?」 「あっ」  えっと、書いてはいないけれど、一応、子ども向けというか。年齢で区切ったりはしてないけれど。 「ないでーす。どぞどぞ、そこの席に座ってください」 「あ、あの」 「もうみんな着席してるし。椎奈くんも座っちゃって」  近藤さんがにっこりと笑いながら、僕らスタッフのテーブルに和磨くんを案内してくれた。  和磨くんが楽しそうにしながら、少し小さな、子ども向けテーブルに腰を下ろした。大きい、大人用のは搬入も大変だから、児童エリアの小さな丸テーブルと小さな椅子だけ持ってきたんだ。それなら男性スタッフの少ない僕らでもどうにかできるから。来るのは子どもだけだし。保護者の方には少し窮屈な思いをさせてしまうけれど、長時間じゃないからごめんなさいってことで、と近藤さんと話した。  小さな子どもたちはお母さんやお父さんととても楽しそうに話しながら、どんなスタンプがあるんだろうと、テーブルの真ん中に並べてあるスタンプを早速吟味している。 「はーい、それでは、みんな座れたので、今からハンドメイドしまーす」  近藤さんが口元に手を置きながら、わいわいと楽しそうな空間の中で大きな声で説明を始めてくれた。 「よしっ」  わ。なんだか、可愛い。 「俺もスタンプ押しまくるぞ!」  キラキラ。  ピカピカ。  和磨くんの笑顔に、僕の胸の内もクリスマスイルミネーションみたいに光が溢れた気がした。

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