140 / 151
メリークリスマス編 9 溢れてしょうがない
「和磨くん、今日は、ありがとう」
「いや、混ぜてもらって、俺こそありがとうでしょ」
和磨くんは小さな巾着を作ってた。作るというか、スタンプ押すだけだけど。さすが歌が大好きな和磨くんだなぁって。音符がいっぱい散らばっていた。僕は途中途中で来てくれた子どもたちの様子を見に行ったりして、席を外してしまうこともあったけれど。音符とアルファベットを並べていたのは見たんだ。
僕もお手本用に作ったんだけど。
センス、ないから。
どうすると素敵かなんてわからなくて。
とりあえずハッピーって英語でスタンプを押してみた。大きい、手提げになる布バックに、その文字と、それからハッピーに見えるように、楽しそうな星マークとかをくっつけて。
そのくらいで精一杯だった。でも――。
「楽しかったし、いいのできた」
でも、僕も楽しかった。
センスはないけど、楽しかったんだ。どのスタンプにしようって選ぶのも、クリスマスっぽくしたくて星マークを選ぶのもワクワクした。少し押しすぎてしまったけれど。でも、ここにも押してみよう、あ、ここにも、あっちにも、って、色々な色の星を押していくの。
「それはよかったです」
すごく楽しかったんだ。
「佑久は?」
「楽しかったです」
和磨くんが嬉しそうにしてくれたから、僕もにっこりと微笑んだ。
日が落ちるのがもうずいぶん早くなってしまった。
「さっむー、外」
和磨くんと出会えた頃はまだ早番のシフトの時なら少し空に陽の気配が残っていたりもしたのに、もう、どこにもなくて、見上げた空は深い紺色一色になっていた。
「あ、和磨くんっ、これ、して」
「?」
「マフラー」
僕は大慌てで、自分の首に巻いていたマフラーを和磨くんがの首にぐるぐると巻きつけた。
バカだな、僕。
和磨くんが風邪引いたら大変なのに。
「ちょ、佑久のっ」
「ぼ、僕は平気っ、寒くないよっ、風邪、喉大事にしなくちゃ」
「……」
喉を冷やしたら喉風邪を引く、とかはわからないけれど、でも、冷やさないほうがいいでしょ?
「僕は頑丈だから」
「……」
「外しちゃ、ダメ、です。僕のために、も」
言いながら、気恥ずかしくて、僕のためになんて、なんだか自惚れ屋みたいで、顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかる。でも、でも、そのくらい言ったら、優しい和磨くんはマフラー外さずにいてくれる気がするから。
「……はぁ、もぉ」
「!」
「今のすっごい可愛かった。けど、マフラーはいいよ。マジで」
「でもっ」
「フードかぶる。んで、この佑久のにおいがする、マフラーは佑久がしてて。俺、ムラムラしちゃうから」
「ム!」
「襲っちゃうから」
「おっ!」
「っぷは」
君が、堪えきれずにそんなふうに笑う時は、たまらなく楽しい時。
僕のことを好きだなぁって思ってくれた時。
「佑久、真っ赤になりすぎ」
「だって」
「あ、あとさ」
「?」
「寒いんで」
そして、君がそんなふうに笑う時は。
「手、繋ごう」
僕も君のことが大好きだなぁって思った時。
好きな人がそばにいるだけで、気持ちがポカポカと温かくなると知った。
「あっ、和磨っ、クンッ」
「うん」
好きな人とする行為はなんでも、どんなものでも、幸せを感じる素敵で優しくて、温かいと知った。
「あっ、あっ、和磨くんっ」
「うん」
返事をしながら、君がにっこりと笑ってくれる。ちょっと険しい顔をすることがあって、それが僕にはすごくたまらなくドキドキする表情で、つい、見惚れてしまうんだ。
すごくかっこいいんだよ。
ほら、歌ってる時とも違うし、僕と一緒におしゃべりをしている時の明るく元気な君とも違う。
ちょっと色っぽくて。
ちょっと男っぽくて。
すごく特別な君。
ほら、心臓が跳ねた。
「っ」
その拍子に奧で君のことをキューッて締め付けたら、君が眉間に皺を寄せてくれるのが、なんだかとても嬉しくて僕は君のことをもっと深く奥で感じたくて、もっと近くに行きたくて、腕を君の背中に回す。
「佑久の中、やばい」
「あっ、あ、ン、ひゃうっ」
銀色の髪が優しく僕の頬を撫でてくれる。
「和磨くんっ」
「うん」
「あ、あぁぁっ」
身体がピッタリと重なる。そのまま奥を和磨くんが抉じ開けながら、首筋にキスをされて甘い疼きに指先がビリビリした。
「佑久のさっきの、すげ、嬉しかったよ」
「? ぁ、ン、あぁっ」
浅いところを小刻みに行き来されて、たまらなくて、なんだか身体がとろとろに蕩けてく。
「喉、俺の、大事にしてくれた」
「あ、だって、歌、歌う人なのにっ」
「うん」
「あ、あ、僕、和磨くんの、歌」
「うん」
気持ちいい。
「好きっ」
「歌だけ?」
「ひゃあっ」
この行為は恥ずかしいのに。裸で、抱き合って、君の体温を感じて、すごくすごく。
「全部、だよ」
嬉しくて。
「和磨くん、のっ」
優しくて。
「ああ、あっ、気持ち、ぃっ」
「うん」
あったかくて。
「あぁっ、和磨くんっ」
「うん」
愛しくて。
「あ、あっ」
「俺も」
「あ、和磨くんっ」
「佑久のこと、すげ、好き」
「っ、あっ、あっ」
幸せが溢れてしようがないから。
「好き」
僕は君を一番奥で感じられるこの行為も好きでたまらないんだ。
だから、寒い冬の帰り道にぎゅって手を繋いで帰るように。君のことをぎゅって、力いっぱい抱き締めた。
ともだちにシェアしよう!