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メリークリスマス編 10 お洒落の極意、パート2

「わ、すごい」  思わず声に出しちゃった独り言に慌てて口を閉じた。  やっぱり都会はすごい。イルミネーションが段違いというか。わざわざこれを見に来る人もいるくらいなのだから当たり前だろうけれど。駅から真っ直ぐ続く道は光のアーチがその先の先まで連なっていて、眩くて、星のパレードみたい。  クリスマス直前、けれど平日。  夕方、まだ仕事をしている人もたくさんいるだろうし、学校は……もう終わる頃かな。でも、休日でもないのに、街道にはこのイルミネーションを見ようとする人でとても賑わっている。  こんな、なんだ。  クリスマスって。  今までは人が多くなるから逆にこもってばかりだったけれど。 「! 時間!」  僕は人が多いところが苦手だ。  歩いているとぶつかってしまいそうになるから。こんなに混雑しているのなら、もう少し早く出ればよかったって思いながら、駆け足でその街道をすり抜けていく。  お洒落な服や雑貨がクリスマスの飾り付けの中でぎっしり並んでいる中、まるでファッション雑誌の世界をそのまま切り取って並べていったみたいな道を歩いて五分くらいのところ。 「す、すみませんっ、時間、ちょっと」  そこが若葉さんのいるヘアサロン。  ぺこぺこ頭を下げながら、最近、プラチナブロンドから黒髪に変えた受付スタッフさんに案内してもらい。 「あ! 佑久くん!」 「ご、ごめんなさいっ時間ギリギリになっちゃって」 「ぜーんぜん、ここでいい?」 「あ、はい」 「ごめんねぇ。今、二階完全物置なんだ」 「もの……」 「成人式があるから」 「あ」  そっか。成人式、こういうお店はその辺りはとても大忙しなんだ。それでなくてもすごく人気のヘアサロンだから。  普段は二階の、個室のようなところに案内してもらってる。芸能人さんとかは人目があるから、リラックスできなくて。だからその二階でカットとかしてあげるらしく。僕はただの一般人だけれど、若葉さんがそこへ通してくれていた。 「全然、僕はどこでも」 「そ? ありがと。でも、最近の佑久くんなら一階の方がよかったりして」 「?」 「いろんなものを見て、いろんな楽しいこととか新しいこと発見してる時の佑久くん、楽しそう」 「!」  前は、俯いて歩いてた。  けれど、今は、よく空を見上げる。彼の声が伸びやかに広がる大きな空を。  それから周りもよく見るようになったかもしれない。彼が季節の歌をよく歌うからかな。それをいつも聞いているから、季節を感じたくなるんだ。だから、街並みとか、人とか、よく見上げるようになった気がする。ふと、思い返すと、自分の記憶の中に広がる景色がグレー色のアスファルトじゃないことに気がついた。  だから、かな。  前は、歩いているとよく人にぶつかりそうになったけれど。  さっき、あんなに混雑していた中を歩いていても、大丈夫だった。 「新しいものを見つけて、キラキラーってしてるから」  キラキラ。 「だから、逆に外が見える一階の方がいいかも」 「……」 「さて、今日はどうしましょうか。この間のあんま気に入らなかった?」 「……ぁ、いえっ」 「カットしてそんなに経ってないでしょ?」 「いえっ全然、っあのっ」 「なんちゃって、ふふ、ごめんごめん。からかっちゃった」  びっくり、した。  慌てちゃった。  カット、この間、若葉さんにしてもらったばっかりなんだ。二週間前に。だから、伸びてしまったから切ってもらいたいとかじゃなくて。 「この辺、少し整えとくね」 「あ」 「カラーとかは、もったいないなぁって思います。すっごく素髪が綺麗だから」 「あのっ」  とびきり、その、僕がこんなこと言っても、あれなんだけど。 「トリートメントって、お願い、できます、か?」  とびきり、素敵になりたいんだ。 「もちろん」 「お、お願いします」 「了解」  若葉さんが優しく微笑んでた。僕の髪を指で漉きながら、鼻歌でも歌い出しそうに口元を綻ばせて。 「ね、前に言ったの、覚えてる? お洒落って……」 「あ、はい」  その人がなりたい自分になるのが一番って言ってた。  綺麗の基準も。  可愛いの基準も。  自分が決める。 「綺麗だなぁ、可愛いなぁ、かっこいいなぁって自分が思えればいいの。他人なんて関係ない」  自分がその自分を気に入っていて、可愛いって思ったなら、それでオッケーって。 「そこにもう一つ、お洒落の極意のおまけ、教えてあげる」  おまけ、があるんだ。  なんだろう。 「それはね。誰か一人、すっごく好きな誰かに、可愛いって、綺麗って、かっこいいって思ってもらいたいって、思うこと」 「……」 「みんなじゃダメ。たった一人」  それは、迷うことも躊躇うこともなく、僕にとっては、和磨くんだ。 「なので、クリスマスデートのために少しでも素敵になりたい佑久くんは」  トリートメントなんてしたことない。若葉さんが「する?」って言ってくれた時くらい。今までは、切ってもらって終わり。乾かしてもらって終わり、だった。  ふわふわになるように乾かしたり。  こまめにカットをお願いしたり。 「最高に素敵です」  センスなんてないけれど。 「あ、ありがとう、ございます」  和磨くんに素敵と思われたくて、今の僕は頑張ってたり、するんだ。

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