142 / 151

メリークリスマス編 11 困っちゃうわ

 クリスマスが楽しみで仕方がないなんて、初めてだ。  子どもの頃はちょっと楽しみだったけれど。ほら、ケーキも食べられるし、プレゼントももらえるから。けれど、  イベントがあるでしょ? 町内会とか、学校のクラスとかで。それがどうにも苦手で。町内会のは、特に。だって、そんなに仲良しの友だちを作るのが苦手な僕には、あの時間をどこでどうやって過ごしたらいいのかわからなくて。きっとずっと、引き攣った笑い方してたと思う。  今年のクリスマスは待ちきれなくて仕方なかった。 「あ、和磨くん、明日、頑張ってね」 「ありがと」  いつも一緒に眠る。  明日は図書館の仕事、この時間に終わるよって話したり、明日は大学一限目から? とか確認したり。明日のお夕飯は何にしようか? とか、話したりしながら、一緒にベッドに入るんだ。  明日の僕らは何をしよう、って話しながら、ベッドに入って。  おやすみなさいの――。 「…………佑久?」 「? はい」  キスをする。 「髪、すっごいツヤツヤ」 「! ぁ、うんっ、今日、若葉さんのところで、と、トリートメント、してきたんだっ。明日、クリスマス、でしょ? ライブ、だから」  優しく、たっぷり時間を使って丁寧に唇で触れるんだ。  僕はこの明日の話をしながらする、おやすみなさいのキスがすごく好き。 「僕が出るわけじゃないけどっ、でも、クリスマス、なので」  僕なんかが自分磨きをしたところで、ピカピカになれるわけじゃないとは思うのだけれど。それでも、ちょっとでいいから、なりたいんだ。  君にもっと好きになってもらえるように、ピカピカに。 「…………っはぁぁぁっ」 「! っ?」  溢れてしまったみたいな、大きな大きな溜め息に目を丸くしてしまった。  ダメだった? トリートメントとか、あんまり。その。 「この前、若葉んとこで髪、切ってもらってなかった?」 「……ぅん」  無駄遣い、だった? 「……」 「……その」 「んああああっもおっ!」 「!」  溜め息をこぼして、俯いて、それからパッと顔を上げた。 「もおっ、なんか、佑久、のそういうの、ヤバいってば」 「!」  僕は肩をすくめて、困ってしまって。 「あの」  あのそのしか言えなくて。 「可愛すぎ」  そんな僕の腕を和磨くんの大きな骨っぽい手がぎゅっと掴んで、洗って乾かしただけの、ふわりとした銀髪が僕のおでこに触れた。そして、僕のトリートメントしてもらったばかりの黒い髪が、小さく、君のおでこと触れ合った。 「僕、可愛……」 「うん、すっごく、やばいくらい」  声がとてもとても近くで聞こえて、ドキドキする。嬉しくて、ドキドキしてる。 「よかった、です。えへへ」  わ。顔近い。 「良くないです」 「ぇ、ええ……」  かっこいい。 「明日は図書館後に俺が参加するクリスマスライブに来てくれるんでしょ?」 「はい」 「んで、その後、打ち上げ、佑久も参加してくれるじゃん」 「うん」 「顔出して、お礼して、そんで帰る」 「うん」 「けど、きっとけっこう遅くなるじゃん」 「う、うん」 「けど、明日は、したい」 「え、あ」 「えっち!」 「!」  わ。 「で、明後日は、クリスマスで、デートするじゃん。佑久さん早番にしてくれたし。だから、夜、絶対にする!」 「ぁ、の」 「えっち!」  わわ。 「しかもガッツリ!」  わ、ぁ。 「なのに、今日、そんな可愛いことされたら、今日もしたいじゃんっ! 三日連続とか、佑久さん、負担になるからダメでしょ。もおっ、なんでそんな可愛いことするかな、マジで」 「ぁ」 「今日は、このまま寝ようと思ってたのに」 「あの」  いつも一緒に眠る。  明日はこうしようとか、これ食べたいとか、そんな話をしてから、おやすみなさいのキスをして、それから愛し合って眠ったり、手を繋ぎながら眠ったり。ただ抱き合う温もりが嬉しくて笑いながら眠ったり。  どのおやすみなさいも僕はとても好きだけれど。  でも愛し合ってから眠るのが、一番好き。  わ。やった。って思うよ。 「和磨くん」  今度は僕から和磨くんに触れた。とっても近く、ちょっとでも身じろいだら、ぶつかってしまいそうな近く、いつも一緒に眠るベッドの上で、唇に触れた。 「三日連続、で、大丈夫、だよ」 「……」 「あ、あのっ、明日、和磨くん、二限目からって言ってたし、僕は、早番だけど、でも、大丈夫っ、本当にっ、なので、あの」 「あんま」 「は、はいっ」 「マジでそういう可愛いこと、言わないように。俺、本当に佑久のこと好きなので」 「ぁ」  抱き締められて、胸が高鳴った。 「僕も、本当に好きだよ」  今日もできるんだって、嬉しくて。 「大好き」  そう小さく告白する自分の声が、気恥ずかしくなるほど弾んでいる。 「あっ……ン」 「佑久」 「あ、あ、っ、和磨く、ぅンっ」  照れ臭くなるほど甘くなっていく。 「髪、すっごいサラサラ」 「……嬉し」 「!」  そしてドキドキしている胸の上に和磨くんが倒れ込んでしまった。 「今の顔っ!」 「わっ」  倒れ込んだと思ったら、ガバって顔をあげるからびっくりして声が出ちゃったよ。 「すっげぇ、可愛かった! はぁ、もぉ、なんなんだろっ」  早く、しようよ。  上手に、妖艶になんて、誘えないけれど、ちょっとでも君にその気になってもらえないだろうかと。 「よかった」  いつも僕は思ってたりするから。 「ふふ」  君と三日連続でできるなんて、実は、内心、大はしゃぎなんだ。

ともだちにシェアしよう!