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ヤキモチも美味しい秋編 5 小山内くん

「小山内くん」 「久しぶり」  にっこりと笑った彼に、ほんの少しだけ、面影が残っていた。  わ。  懐かしい。  高校の時に仲良くしてもらっていたんだ。同じ、図書委員で隣のクラスだったから、よく当番が一緒になったっけ。  同じように本が好きで、一緒に本の整理をするのが楽しかったのを覚えてる。この本を読んだことある? 僕はこれがおすすめで、なんて話をしながら片付けをしていて、静かにしないといけない図書室で怒られたこともあったっけ。僕はきっとその頃から表情は乏しかったと思うけれど、それでも根気強くと言っていいのか、話題を振ってくれる人だった。 「司書になったんだね」  少し、彼と当番が一緒になった日は楽しかった。 「うん。けど、すごいね。偶然」 「あー、いや」 「?」 「聞いたんだ。今度、同窓会があるんだけど、俺が椎奈には話すから、連絡先、教えて欲しいって」 「そうなんだ。同窓会」 「うん」  すごいな。小山内くん、当時も背は高かったけれど、もっと背中が丸まっていたせいか、こんなに背が高い印象がない。それに、なんだか、髪の色も黒じゃなくなっているのが不思議で。 「そしたら、図書館で仕事してるって教えてくれて」 「うん」  キラキラしてる。  あ。  ピアス、和磨くんが好きなところと同じブランド、かな。ちょっとデザインが似てるかもしれない。へぇ、小山内くん、ピアスしてるんだ。高校生の時からは想像もできないなぁ。そうだ、メガネ、だった。うんうん。メガネだった。今は……。 「カラコン」 「! ご、ごめんっ」 「なんで? じっと見られて、ドキドキしたけど」 「ごめんっ」  人の顔をじっと見つめるなんて失礼だったと慌てて俯いた。 「図書館で仕事してるって聞いたから、なんか、会いに来ちゃったんだ」 「あ、うん」  失礼なことをしてしまったのにと、俯いたけれど、柔らかい口調で語りかけてもらえて、パッと顔を上げた。  ニコッと笑ってくれて、やっぱりその笑顔には当時の面影が残ってて。 「……もしかして、椎奈くんってあんまりテレビとか見ない?」 「? え?」 「テレビ観てたら」 「?」  その時だった。 「え? あれって、ねぇ、もしかしてさ」  そんなヒソヒソ声が耳に届いた。 「! ごめん。椎奈、ちょっと」 「え? あのっ」  その瞬間、急に小山内くんがパッと下を向きながら、僕の手首をギュッと掴んで、階段を駆け降りていく。いつも、和磨くんが待ってくれているカフェの前にある垣根の隙間に二人でまるで身を潜めるように入り込んで。  急にどうしたのだろうと、僕はいくらか上を向いて、小山内くんのことを覗き込んだ。 「ごめん。ファンの子かな」 「ファン?」 「そ、俺、今、アイドルやってて」 「アイドル」 「最近、メジャーデビューしたせいか、素顔でいるとちょっと、ね」  アイドル、メジャーデビュー、素顔デ、イルトチョット。 「え、えぇ?」 「あはは、テレビ観てないんだね」 「うん」 「ファイブスターっていう、アイドルでやってる」 「ええええっ」  あの小山内くんが? 「あ、ちょっと待って、検索したら証拠になるかな」 「?」  小山内くんがポケットからスマホを取り出すと、パパッと慣れた手つきで画面をタップしている。 「これ」  そう言われて覗き込んだところには、FIVESTARっていう文字とすごくかっこいい五人の男性の写真があった。 「この、真ん中の」 「……えぇっ?」  かっこいい、のかな。煌びやかな衣装を着て、すごく決まったポーズで画面越しにこちらを射抜くように見つめてる。その中心に、彼がいた。今、目の前にいる小山内くんよりも唇が赤くて、肌が白くて、この時は、オオカミさんみたいに銀色に近い金髪で。あ、でも、こっちに写真は青味がかかった金髪だ。今は、ミルクたっぷりのコーヒーみたいな髪色だったけれど。少しお化粧をしていて、少し、引き締まった表情で、少し、違う人みたいだけれど、確かに小山内くんだ。 「ね?」 「!」 「だから、あんま、普段は素顔で出歩かないんだけど、サングラスにマスクして声かけたら、ヤバい人だって思われそうだし。そもそも俺ってわからないかなって思って」  あ、そういえば、俺、って言うんだ。  昔は、僕、だったのに。 「椎奈は変わらないね。昔と、そんなに」  あ、僕のことも「くん」がなくなってる。いや、それは別にいいのだけれど。 「それで、同窓会するんだけど、来れる? 俺も、仕事が忙しくて、無理かなって思ったんだけど、椎奈が来るなら行きたいって思って」  ――椎奈くん、こっちの棚、の片付け一緒にやらない?  あの、ちょっと俯いてて、背中が丸くて。 「来れない? 来週の土曜日なんだけどさ」  ――椎奈くんと棚の片付けするの楽しいよ。  いつもメガネが少しだけずり下がってて、僕はそれが少し気になってて。 「一緒に話そうよ。俺、久しぶりに椎奈と話したいんだ」  ――あ、僕がそれ運ぶよ、椎奈くん。  ニコニコしていた小山内くんが。 「アイドルっ?」  だなんて、びっくりしすぎて、僕は身を隠してる意味がないほど大きな声で叫んでしまった。

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