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ヤキモチも美味しい秋編 6 スター
「…………本当だ」
――ファイブスター、で検索してみてよ。歌の配信とかも結構してるんだ。ダンスも。
帰宅してから調べて見ると、本当にアイドルだった。しかも、すごく人気、なのかもしれない。初のツアーが大成功したって書いてある。
全然知らなかった。
あの小山内くんが、こんなすごい人になってたなんて。
小山内くんが、すっきりとした表情で、優しそうな笑顔を口元に浮かべてる。後、少しお化粧とか、してるよね? 和磨くんも、たまに撮影でお化粧したりすることがあるって言ってた。
「わぁ……」
小山内くんがアイドル、かぁ。スクロールをしていくと、確かに歌の配信もたくさんある。わ、すごい踊ってる。わ、わ、すごい。ダンスなんて、僕には到底できそうにないよ。
――それで、同窓会するんだけど。
あ、そうだ。そうでした。
同窓会だ。
同窓会があるからおいでって言ってくれたっけ。びっくりししすぎて、小山内くんがどうして会いに来てくれたのか、その根本を忘れるところだった。同窓会のことをわざわざ言いに来てくれたのに。
「……ぅ……ーん」
同窓会、かぁ。
そういうの、僕は苦手だ。会食というものがそもそも僕は苦手で、きっと今までの僕ならあの場で断ってたと思う。誘っていただいてとても光栄だけれど、申し訳ないですって言ってた。
――来週の土曜日、か、ちょっと、今すぐに返事できないけれど、大丈夫、ですか?
でも、今の僕は即答でお断りはしなかった。
来週の土曜日は早番なんだ。だから帰りが早いから、行けなくはなくて。あとは、和磨くんに出かけてきますって報告をしてから、小山内くんには返事をしようかなって。一緒に暮らしている和磨くんに一度断りはしないとでしょう?
――ブブブ。
その時、手の中のスマホが振動して。
――さっきは突然ごめん。返事、幹事に聞いたら、二日前までで大丈夫みたい。
「!」
小山内くんからだった。僕が同窓会に参加するのかしないのか即答できなかったから、確実な返事をするまでの猶予を取りまとめ役の人に確かめてくれたんだ。
僕は慌てて、アイドルで忙しいだろう小山内くんに、ありがとうございます。できるだけ早く返事しますと返信を打って送信した。
でも、世の中、何がどうなるかなんてわからないものだよね。
あんなに会食が苦手だった僕が、同窓会の招待に前向きになってみたりさ。
そして、何より、この僕に恋人ができるんだもの。しかも、その恋人があのオオカミさん、だなんてさ。
「ただいまぁ」
気持ちが、ぴょんって跳ねた。
「おっ、おかえりなさい」
和磨くんだ。
「ご飯、作ってあるよ」
そう言って、ひょこっと玄関へ顔を出したら、スニーカーをちょうど脱ぎ終わった和磨くんが心なしか目を輝かせた気がした。
まるで、ぴょん、って僕みたいに気持ちが跳ねたみたいに、キラって。
「佑久も、おかえり」
「! ただいま、です」
そして、君が笑ってくれて、僕はまた、気持ちをぴょんって跳ねさせた。
「同窓会?」
「あ、うん」
「いつ?」
「来週の土曜日、もしも、和磨くんが僕に何も用事とかないようなら、その日」
「え、ないない。いや、っていうか、行って来なよ」
今日の晩御飯も秋の味覚がテーマになっちゃった。主任がね、サツマイモをくれたんだ。ご近所からたくさんもらったからお裾分けしてくれた。とてもとっても大きなサツマイモは皮の紫色がとても鮮やかで綺麗だった。どうやって食べようかなって思ったら、お味噌汁に入れると簡単で甘くて、美味しいよって。
うん。
本当に甘くて美味しいや。
「っていうか、楽しんできなよ」
「う、ん」
楽しめる、かな。
「? 佑久?」
「あ、いや、僕、そういうのってちょっと苦手で」
「……」
楽しそうにできないらしくて、場を盛り下げちゃうっていうか。心配かけてしまうというか。せっかく楽しみたいのに、僕がいると、なんか、場が暗くなっちゃうか、僕が、みんなの話題についていけなかったりして、早く帰りたくてたまらなくなるから。本、読んでる方がずっと楽しいって、だんだん思っちゃって。
「今の佑久なら、楽しめるんじゃん?」
「! ぅ、ん」
あのね。
「うん」
僕も、ちょっとだけそう思うんだ。
「じゃあ、行ってきます」
「うん」
今の僕は少し、旧友に会ってみたいって思ったり、するんだ。
「その、誘ってくれたのがね」
「うん」
「同じ図書委員だった同級生で」
「へぇ」
「当時はよく本の趣味が似てることもあって、数少ない話しやすい同じ学校の人だったんだけど」
「へぇ」
「いつも、僕なんかと一緒に当番やってくれて」
「……へぇ」
「たまに、他の子と当番が一緒で、人見知りがすごいから緊張してると、その子が当番代わってくれて、一緒にやらせてもらえたり」
「……へ、へぇ」
しょっちゅう一緒に当番だった。
「今日もわざわざ同窓会のこと言いに来てくれて」
「……へ、へー」
「忙しいのに」
「……」
「あ、アイドル、なんだよ。ファイブスターっていう」
「え、えぇぇぇっ?」
驚くよね。僕もすごく驚いたんだ
だって、旧友がアイドルだよ? しかも人気の。
「えぇぇぇぇぇっ!」
すごすぎて、和磨くんがすごく驚いていた。その声は、天井を突き破って、夜空に輝くお星様にも届いてしまいそうなほどだった。
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