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第4話
迎えた夜。
母親が作ってくれたハンバーグを食べた後、おれは絢人と共に父親に連れられて出かけた。
「兄上さま、ぼく、怖いです」
絢人は暗いところが苦手で、父親の車に乗り込んだ時から怖がっていた。
「ははは、大丈夫だ、絢人、いつも見るようなのはいねぇはずだから」
「本当ですか?父上さま」
「あぁ、いたとしてもあの世に送ってやればいいんだから心配すんな。兼輔、絢人の手を握っててやれ」
「分かった」
おれは父親の言われた通りにする。
絢人はおれと同じように父親のチカラを受け継いでいて、これから死ぬ人間が分かるから、そうした人間を見つけると怖くて泣いてしまう姿をおれは何度か見ていた。
ただ、おれと違うのは、泣きながら狼の姿になって、その人をあの世に送ってしまう事が出来るという事と、その後狼の姿のままでおれに飛びつき、おれが受け止めると、徐々に元の姿に戻ってそのまま眠ってしまうという事。
こんな事がここ2、3年くらいの間に何度か起きていて、その時の絢人は狼っていうよりは子犬みたいなのだが、ただ死にそうな人間が分かるだけのおれとは違う、おれよりもチカラが強いのかもしれないと感じていた。
「兄上さまの手、冷たいです」
「絢人の方が体温が高いからそう感じるんだよ」
震えている手を握ってやると、絢人は嬉しそうに笑った。
「さ、着いたぞ」
車を停めたのは全国的にも有名な地元の観光スポットである洞窟が近い駐車場で、父親は俺たちにも懐中電灯を持たせると普段は立ち入り禁止になっている場所を進んでいった。
「父上さま、ここは入っちゃいけない場所ですよ」
「あぁ、フツーの奴らはな。こっから向こうは俺たち……死神の血を持つ人間だけが入るコトを許されてる場所なんだ」
照らした先に黒光りしている鳥居が見えてくると、父親が足を止める。
「しにがみ?」
「死にそうな人をちゃんと天国に連れていく仕事の名前だ。誰でも出来るワケじゃない、特別な仕事なんだ。スゲーだろ?」
「うん!スゴい!!ぼくもそのお仕事が出来るんだ!!!」
と、絢人はきらきらしている目をさらに輝かせて言った。
それが既に出来ている事を分かっていない様だ。
「そうだ。今これから、お前らには大人になったら死神をちゃんとやります、って神様の前で誓ってもらう」
と言って、父親は日本語には聞こえない言葉を鳥居に向かって言い出した。
それはおれの耳に自然に入ってきて、聞いているうちに頭がだんだんぼーっとしてきた。
「ここに、絆結の儀を結ぶ……」
と父親が言うと、身体が勝手に動き、おれは絢人と向かい合っていた。
絢人もぼーっとしているのか、まっすぐなきらきらの目がとろんとして、いつもの輝きがなくなっているように見えた。
俺たちの距離は自然に近くなり、最後は顔が近すぎて見えないくらいになった。
そして。
おれの唇に何か、あたたかいものが触れたと思うと、口の中にそれより熱いものが入ってきた。
「んう……っ……」
それが舌に触れて、おれもよく分からないけど舌で触れかえして。
ほんの少しの時間のことだったと思うが、心臓がバクバクして、身体が熱くなって、気がついたら父親に抱かれて車まで運ばれていた。
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