16 / 97

第16話

「おはようございます、犬養係長」 弟さんが入社されるそうですね、と、一族ではない若い女性社員がおれに言った。 「……えぇ、弟と言っても母親違いでずっと会っていなかった弟ですが……」 受付で話していると、あにうえさま、と、よく通る澄んだ若い男の声がした。 声のした方を見ると、そこには写真で見た絢人と同じ顔の男が立っていた。 「……絢人……」 おれより小さかったとは思えないくらい背が高くなって、体つきもおれよりがっしりとしているように見えて、それでも瞳だけは相変わらずうるさく輝いていて。 おれは、そんな絢人を見た瞬間に胸がギュッと締め付けられて、苦しいくらいになってしまった。 「兄上様、長らくご無沙汰しておりました」 近づいてくると、その大きさに身体が熱くなってしまう。 おかしい。 こんな風になった事なんて今まで1度もなかったのに。 「兄上様……」 熱さで意識が遠のいていく。 そんなおれを、あたたかい何かが包んでくれた。

ともだちにシェアしよう!