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第16話
「おはようございます、犬養係長」
弟さんが入社されるそうですね、と、一族ではない若い女性社員がおれに言った。
「……えぇ、弟と言っても母親違いでずっと会っていなかった弟ですが……」
受付で話していると、あにうえさま、と、よく通る澄んだ若い男の声がした。
声のした方を見ると、そこには写真で見た絢人と同じ顔の男が立っていた。
「……絢人……」
おれより小さかったとは思えないくらい背が高くなって、体つきもおれよりがっしりとしているように見えて、それでも瞳だけは相変わらずうるさく輝いていて。
おれは、そんな絢人を見た瞬間に胸がギュッと締め付けられて、苦しいくらいになってしまった。
「兄上様、長らくご無沙汰しておりました」
近づいてくると、その大きさに身体が熱くなってしまう。
おかしい。
こんな風になった事なんて今まで1度もなかったのに。
「兄上様……」
熱さで意識が遠のいていく。
そんなおれを、あたたかい何かが包んでくれた。
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