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第20話
午前中の入社式は欠席してしまったが、午後からのオリエンテーションにはおれも絢人も参加した。
「犬養係長、目眩お辛いですね、無理なさらないで下さいね」
「あ、あぁ、ありがとうございます……」
どうやらおれは目眩で倒れた、という事になっていた。
司会をしている間、絢人からの視線を感じたが仕事中だと言い聞かせて気に留めないようにした。
じゃなければさっきまでの事を思い出して興奮してしまいそうだったからだ。
「兄上様」
絢人はそんなおれの気持ちに関係なく、休憩の度に傍に来た。
「犬養さん、距離が近すぎます」
周りの目もあるので他の社員と同じ言葉遣いで返すおれ。
「申し訳ございません、気をつけます」
と絢人は言ったが、離れてもほんの少しだけ……という状況だった。
「犬養くん、ちょっといい?」
そこに、女性の新入社員3人が入ってくる。
「おふたりって同じ苗字だけど親戚なの?」
「えぇ、母親は違いますが犬養係長は私の兄です」
彼女たちに笑顔で対応する絢人だが、おれの一歩前に出て、彼女たちをおれに近づけないようにしている様な気がした。
「だから似てないんだ!」
「でもふたりともカッコイイ!!」
その場で盛り上がった3人は満足したのか、おれたちに礼を言うと他の新入女性社員たちのところに戻り、おれたちの話をしている様に見えた。
「やはり兄上様の美しさには誰もが惹かれてしまいますね」
「それはあなたの方ではないですか?」
「そうでしょうか。兄上様は美しいお顔だと子供ながらに思っていましたが、ますます美しくなられたと思いました」
だから、心配です。
と、絢人はボソッと呟いた。
「そんな心配するような事などないと思いますが」
寧ろ、おれなんかに夢中になってる絢人の方が大丈夫なのかと思ってしまった。
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