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第22話

「兼輔」 叔父だった。 叔父はおれをホールの外に連れ出し、誰もいない事を確認するとおれに言った。 「境川部長を殺すつもりか」 「殺す?おれにそんなチカラなんてありませんよ。親父に連絡するだけです」 父親が跡取りに決まった事で犬飼の家に養子に入った叔父。 犬飼家は跡取り以外の子供が養子に入る家であり、跡取りの結婚相手として最も選ばれてきた、代々繋がりのある家だった。 おれも跡継ぎじゃないので本来は行く筈だったのだが、絢人がいなかった事で養子に行く事はなかった。 「チカラがあるからと驕り高ぶるのも大概にするんだな。お前らのやっている事はただの殺人に過ぎない」 父親ほどではないがおれよりは背の高い叔父はおれを見下しながら言う。 叔父もおれと同じチカラがある事は父親から聞いていた。 「殺人なんかしちゃいません。おれも親父も与えられた仕事を粛々とこなしているだけです」 「あいつは……兄貴は未来が変わるかもしれない事を考えずにどんどん殺しているじゃないか」 「変わるならばあんな顔色にはならないと思いますが……」 初めてこんなやりとりをしたが、叔父とおれ、というか、父親の考え方は全く異なる事が言葉を交わした事で分かり、こうした違いもふたりの溝を深いものにしたのだと思えた。 「お前はもう少し理解力のある奴だと思っていたが……残念だ……」 叔父は胸ポケットから何かを取り出そうとしたが、その時絢人が現れる。 「会場から出られて何をされているのかと思えば、とても物騒なものをお持ちですね、犬飼社長」 絢人は叔父から何か文字が書いてあるラベルの付いた小さな瓶を奪い取ってそれを一瞥した。 「か、返せ……!!」 「貴方こそ人殺しでは?睡眠薬は量によっては人を死に至らしめる薬ですよ?」 と言って叔父に瓶を渡した絢人の目は、おれが知らない……とても冷たい目をしていた。 「絢人、お前も兄貴が正しいと思っているのか?人間の生きる可能性を信じようとは思わないのか?」 「生きる可能性?死が分かっていて、それも苦しみ抜いて死に逝くことが分かっているのにですか?そんな残酷な事、俺には出来ません」 初めて見る絢人の冷然とした様子に、おれは背筋がぞくっとしてしまう。 「貴方は誰のお陰で今の暮らしが出来ているのか、もう少し考えた方が良いと思いますよ?貴方の命など、俺がその気になればすぐに奪う事も可能ですから……」 「……ッ、その目、兄貴そっくりだな」 醜い死神の目だ。 そう吐き捨てるように言って、叔父はホールに 戻っていった。

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