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第24話
懇親会が終わり、片付けを終えると、おれは先に帰った絢人に連絡していた。
オリエンテーションに参加する前に交換した連絡先。
『境川部長と一緒にいます』
電話には出なかったものの、絢人はすぐにメールを送ってくる。
位置情報を教えるリンクも貼ってあったのだが、そこはおれの家……自宅兼母親の店だった。
「いらっしゃ……あら、お帰り、兼輔」
「おぉ、お疲れ様、お邪魔してたよ」
部長は絢人に声を掛けられ、おすすめのお店で一緒に呑みたいですと言われたので家に来た事を上機嫌で話してくれた。
「母上様のお店だなんて知らなかったので来た時は驚きました」
「あたしも絢人君がこんなに立派になっててビックリしたわよ」
店内には他にも客がいて、おれを見て声を掛けてくれる人もいた。
おれは荷物を家に置きに戻ると、母親を手伝う事にした。
「兼ちゃん、こっちにビールふたつ持って来て」
「承知しました」
ネクタイを外し、袖を捲ったワイシャツの上にカウンターの裏にある収納棚にしまってある黒いエプロンを着てビールを用意すると客の所まで運ぶ。
「いっつも悪いね」
「いえ……」
よくある日常。
客の中に死にそうな人間がいるのも、たまにある事。
違うのは、この空間に絢人がいるという事だ。
「お前はホントよく働くなぁ。学生の頃から知っているが大したモンだ」
部長は絢人と楽しそうに酒を呑んでいる。
絢人は1杯目はビールを頼んだ様だったが、その後はジンジャーエールにしたのかカウンターには空の瓶が2本置いてあった。
30分ほどして部長が帰ると言うので、おれは自分のスマホでタクシーを呼ぶフリをし、エプロンを脱ぐと絢人と共に店の外に連れ出した。
「今日はとても楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」
「喜んで頂けて嬉しいです」
かなり酔っている様子なのは足元がふらついているから分かる事で、その顔は死が近い者のものだった。
こんなに楽しそうでも、部長にはそう遠くない未来に苦しんで死ぬ、という運命が待ち受けているのだ。
「……最期にいい気持ちになって逝かれるなんて、幸せですね」
絢人の姿が変わっていく。
父親と同じく、白い毛並みのエゾオオカミの姿に。
『どうぞ、安らかに……』
部長の目にこの光景がどう映っているのか分からないが、おれには、絢人の姿は綺麗で眩しいくらいに光り輝いている様に見えた。
「…………」
絢人のカラダに包まれた部長は、笑顔で目を閉じていた。
おれは心臓の音が聞こえない事を確認すると、部長に手を合わせた。
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