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第26話
「ふたりでよく頑張ったな。もうこれで俺は御役御免だ」
父親に報告すると、父親はいつもの様に母親の店に来た。
家族3人のところに絢人が加わり、久しぶりに4人家族の姿があるのがおれは嬉しかった。
「アンタ、この子達の気持ちも考えてあげてよ。初めての仕事が職場の人って可哀想じゃない?」
「あー、そういやそうか。境川のオヤジには世話になったしな」
「そうよ、アンタの事だって大事にしてくれてたじゃない」
「だな。オヤジの冥福、ちゃんと願うわ」
「お母ちゃん、おれは大丈夫だから。人はいつか死ぬ。それが早いか遅いかだけだって分かってるから。心配してくれてありがとう」
両親のやり取りに、おれは言った。
「母上様、俺も大丈夫です。俺にとっては初対面の方でしたから……」
隣に座った絢人がおれに続く。
「そう?ならいいけど。っていうか絢人君、家の事があるとはいえこんな田舎によく帰る気になったわね。晴臣から聞いたんだけど大学まで都会に住んでたんでしょ?」
「えぇ、でも、向こうは母親が俺を勝手に連れて行っただけなので、何の愛着もなくて。俺はこの町でずっと暮らしたいって思っていたから、戻ってきました」
母親が尋ねると、絢人はこう言って、カウンターの下でおれの手を握ってきた。
「俺は母上様と父上様の息子として兄上様と共に生きていきたいんです。母上様、お許し頂けますか?」
「絢人君、そう思ってもらえるのはあたしとしてはすごく嬉しいけど、あなたにはお母さんが……」
「母親とは大学に入った時点で会っていませんし、もう会うつもりもありません。向こうも再婚して新しい家族を作って幸せにやっているみたいなので母上様が気にかける事など何もありません」
「そうだったのね。絢人君、大変な思いをしてここまできたのね。分かったわ、今までと何も変わらないけど、あたしの事、本当の母親だと思っていつでも頼って頂戴ね」
「ありがとうございます、母上様」
知らなかった絢人の過去。
家の為、そして、おれの為に絢人が頑張ってきたのを思うと、胸が熱くなった。
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