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第30話
『お友達と出かけてくるから夜まで帰らない』
スマホを開くと待受画面に母親からそんなメールが届いているという通知が来ていて、横にはガキの頃とほとんど同じ顔で寝ている絢人がいた。
「……あにうえさま……」
汚れた布団カバーを外して交換していると、絢人が寝言を言う。
そういえば、ガキの頃はいつも絢人がおれと寝たいと言ってひとつの布団で一緒に寝て、おれが先に起きたら今みたいに寝言を言ってた事があったな。
あんな時から、絢人はおれしか見てなかったのだと思うと大丈夫なのかと思ってしまうが、そんな絢人に契約があるとはいえ応えてしまったおれも決して普通じゃない。
じゃないが、おれはそれでも構わなかった。
おれを、おれだけをずっと好きでいてくれた絢人が愛おしくて仕方なかったから。
汚れた布団カバーを洗濯乾燥機に入れて洗い始めるようにスイッチを入れると、おれは部屋に戻ってまだ寝ている絢人の隣に身体を横たえる。
広く厚い胸に顔を寄せると、絢人の鼓動が聞こえて心地良かった。
「んん……」
それからすぐ、絢人の瞳が開いて、きらきらのその中にぼさぼさ頭のおれが映った。
「あにうえさま……」
挨拶よりも早く、 絢人はおれを抱き締める。
「起きて腕の中に兄上様がいらっしゃるなんて、夢の様です……」
おれの口元のホクロに触れ、頬を撫でたあとで顎を持ち上げる長く綺麗な指に見蕩れていると、絢人の顔がすぐそこまで来ていた。
「おはようございます、兄上様」
音を立ててキスをすると、絢人は笑顔で言った。
「……おはよ……」
おれも、これが夢じゃない事が嬉しかった。
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