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第31話
おれがシャワーに入っている間に絢人が家の中にある食材でナポリタンとサラダを作ってくれた。
味も美味しくて、腹が減っていたのもあって、おれはあっという間に食べ終わってしまった。
「凄いな、絢人は。おれ、料理はほとんど出来ないから尊敬する」
「一人暮らしをしていく中で出来るようになっただけの事ですが、兄上様に喜んで頂けて嬉しいです」
絢人が食事を用意してくれたので、おれは食後にコーヒーを用意した。
カップに引っ掛けてお湯を注ぐだけのドリップコーヒー。
それでも絢人はおれが用意してくれたのが嬉しい、美味しいと言って飲んでくれた。
「隣市に食料品の店があって、そこで売ってるコーヒーなんだが、美味いからよく買うんだ」
「そうだったんですね。兄上様、俺もそのお店に行ってみたいです」
「おれの運転で良かったら……」
食事を済ませ、使ったフライパンや食器を洗いながらそんな話をする。
「よろしいのですか?兄上様、お身体お辛くないですか?」
「あぁ、カラダも何ともないから問題ない」
行くか、と言うと、絢人はすぐに、はい、と、嬉しそうに応えた。
最近買い換えた車の助手席に絢人を乗せ、絢人の着替えを取りに行ってから車で40分くらいの隣市に向かう事にしたおれたち。
絢人が住むアパートは一族の会社の管理する物件で、本社からは徒歩5分ほど、おれの家からは車で10分ほどの距離で、一人暮らしには少し広く感じられる部屋だった。
「父上様がご援助して下さったお陰で生活に困る事もなく、車の免許も取得出来ました。だから車は自分で働いたお金で買おうと思っているんです」
まだ引越したて、という印象の部屋のタンスから濃紺のジーンズと白いパーカーを出してくる絢人。
「おれのがあるからいいだろ。維持費も馬鹿にならねぇし」
今度貸してやるから練習すればいい、と、着替えている絢人に向かって言うと、絢人は良いんですか?と尋ねてきたのでお前が良ければ、と応えた。
「ありがとうございます、ぜひお願いいたします。俺も運転が上手く出来るようになったら、兄上様とどこか遠くにお出かけしたりしてみたいです」
着替えが終わったところで再びおれの車に乗り、目的地を目指す。
「おれは運転するのは嫌いじゃないからお前が行きたい所があるならずっと運転でも構わないが……」
「凄い、兄上様、運転がお得意なんですね!!」
その間は他愛のない会話をして、予定よりも少し早く到着していた。
店はショッピングモールの中に入っていて、絢人と並んで歩いているといつもより視線を感じた。
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