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第38話
「おつかれ〜!!まだ全員揃ってないから今アップしてたとこ」
「そっちが弟?全然似てねーな」
体育館はネットで仕切られていて、おれたちは奥の方でバレーボールをやる事になっていた。
先に来ていたメンバーに、絢人は自己紹介をして頭を下げる。
「兄上様」
それからすぐに一緒に柔軟やりましょう、と笑顔でおれに言ってきて、断る理由もないのでおれは絢人と準備運動を始めた。
そうしているうちに全員が揃ったので、終わってすぐに4対4のゲームを始めた。
「弟くん、最初にサーブして」
「はいっ、承知いたしました!」
おれと絢人は同じチームになっていて、絢人のジャンプサーブはものすごい勢いだった。
「ちょっ、めっちゃハンパねぇんだけど」
「弟くん、それは試合で打ってもらっていい?そんなの返せねーわ」
「は、はい、申し訳ございません……」
大学までやってた、と言っていたが、かなりの実力だった事が伺えるサーブに全員が驚かされる。
その後も絢人のバレーボールのクオリティの高さは凄まじく、おれも絢人にトスを上げるのが楽しくなっていた。
「弟くんヤバすぎ」
「犬養、お前とんでもないの連れて来たな」
「おれもこんなに強いとは知らなかった」
2ゲームを終えたところで水分補給をしながら休憩し、談笑する。
「弟くん、プロから声かからなかったの?」
「はい、でも同じチームの先輩や同級生で何人かプロになった方がいました」
「そんなスゲーとこでやってたんだ」
「てか犬養、お前いつの間に彼女出来たのか?すげー跡ついてるけど」
「……あぁ、少し前に出来た」
Tシャツに着替えた時から言われると思っていたが、絢人に付けられた跡の数々についてメンバーに弄られる。
「独身生活まだまだ謳歌してんだな。オレなんて子供産まれてからなかなか出来なくてさぁ」
「俺も。うちは幼稚園入ったから俺の平日休みで子供のいない間に……ってなったけど、時間作るの大変だよな」
既婚者のメンバーたちが嘆いていると、未婚のメンバーで彼女のいない奴が相手いるだけ良いじゃないかと言った。
「弟くんは?」
「あ、はい、います。ずっと遠距離恋愛だったのですが、私がこちらに就職しましたので、これからは一緒の時間を沢山過ごしたいと思っています」
「へー、都会の子の方が可愛い子いっぱいいそうなのに」
「……その方より綺麗な方を私は知りません」
と、絢人は頬を赤らめて言った。
「そんな美人なんてこんな田舎にいた?」
「知らねーな」
……誰も相手がおれだなんて少しも思っていない様で良かった、とおれは思った。
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