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第40話

体育館前で解散すると、おれは絢人とエプロンを買いに行ってから家に帰る為に駐車場に向かおうとしていた。 すると、隣に車を停めたから途中まで一緒に行こう、と、音椰が声を掛けてくる。 「明日の話がしたくて。仕事終わって着替えたら本社前で待ち合わせでいいかな」 「あぁ」 「音椰さん、俺も行きます」 絢人が話に入ってくると、おれには笑顔だった音椰が、絢人には冷たい目を向ける。 「そうですか。僕が君なら行かないけど」 「俺は貴方ではありませんし、兄上様を危険な目に遭わせたくありませんので」 「それ、どういう意味?」 「おい、絢人」 音椰に敵意を剥き出しにしている絢人をおれは止めようとした。 「……申し訳ございません」 絢人はおれが睨んだのも効いたのか、少し青ざめた顔をして音椰に謝罪する。 「それだけ兼ちゃんが大切なんだね、絢人くんは」 「はい。俺にとって兄上様は俺の全てですから」 笑っていない笑顔で話す音椰に、絢人は言った。 「絢人くん、そういう事はあまり他の人には言わない方が良いと思うよ。君がそう言う事で兼ちゃんが迷惑する可能性があるからさ。じゃあ兼ちゃん、またね」 冷たい目をしたまま言うと、音椰は先に車に乗り込んで去っていった。 「兄上様……」 申し訳なさそうにしている絢人に、おれはガキの頃、絢人がおれとふたりで留守番をしている時に誤ってうちの食器を割ってしまった事を思い出した。 「そんな顔すんなって」 おれはあの時の様に絢人の頭を撫でてやろうと背伸びをする。 「昨日、兄上様に言われたばかりなのに、気持ちが抑えられませんでした」 頭を撫でたおれを、絢人は抱き締めてきた。 「次から気をつければいい」 「はい……」 あぁ、確かあの時もこう言って、一緒に割れた食器を片付けて母親に謝ったんだよな。 母親は絢人が怪我してないか心配して、おれは絢人に片付けさせて怪我させたら面倒臭い事になるから次に同じ事があったらおれだけで片付けるように言われた記憶がある。

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