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第42話
「兼ちゃん」
翌日の昼。
社員食堂に昼飯を食べに行こうとしたら音椰がおれの前に現れる。
「一緒にお昼食べない?」
「あぁ、いいけど」
音椰は別のフロアで仕事をしているので、よくある事だった。
日替わり定食を頼み、並んで席に座って食べる。
「絢人くん、兼ちゃんの事がすごく好きなんだね。兄っていうよりは恋人みたいな感じで兼ちゃんに接してるように感じたよ」
「そうか?」
「うん、そうだよ」
絢人と出会ってからの音椰の目の雰囲気が変わったような気がした。
前までは穏やかで温かい雰囲気だったのに、今は冷たく感じられた。
「兼ちゃん、大丈夫?辛い思いしてない?その傷……」
と言って、音椰はワイシャツから少しだけ見えてしまっていた絢人の噛み傷に触れようとする。
「だ……大丈夫だ、心配しなくていい……」
瞬間。
背筋がぞくぞくして、おれは音椰の手を掴んで触らせないようにしていた。
「……そう。僕で役に立てる事があったらいつでも言ってね」
そう言って笑っておれの手を離す音椰の目はやはり冷たい、表面上だけに見える笑顔を浮かべていた。
昼飯を食べると、音椰はまた後でねと言って職場に戻っていった。
おれはと言えば、さっき触れられそうになった傷跡が疼き、その熱が次第に身体中に拡がっていく感じがして、目の前がくらくらしていた。
「……っ……」
トイレの個室に入って傷跡に触れると、絢人に噛まれた時の事や抱かれた時の事が頭の中を駆け巡ってどうしようもなくなった。
「うぅ……ッ……」
便座に腰を下ろして必死で声を殺してベルトを外し、下着ごと足元に落とすと既に先端を濡らして勃起しているモノに触れる。
「ンんッ、、、」
擦るとぬちゅッ、といういやらしい水音がして、誰かが入ってきたら……と思ったのは刹那の事で、この疼きをどうにかしたくておれは夢中になって手を動かしていた。
「う……うぅッ……!!」
何とかイク事が出来て、恥ずかしい気持ちになりつつも疼きが収まったのでホッとした。
後始末をすると、おれは何食わぬ顔で午後からの仕事に戻り、退勤まで仕事をこなした。
社内メールに今日の境川部長の通夜への参加は強制しないが、参加する者は残業せず定時で帰り遅れずに参加するようにと書かれていた。
絢人は大丈夫かと思って連絡しようとすると、先に絢人から電話がかかってきて、おれの部署から一番近いエレベーターの辺りにいるというので、そこで落ち合った。
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