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第44話
部長の通夜には会社関係者が多数集まっていて、父親と叔父の姿もあったがお互いに距離を置いているのが分かった。
「兼輔、絢人君、あら、音ちゃんも一緒だったのね」
「こんばんは、まなみおばさん」
おれたちはうちの両親の近くに座って参列した。
通夜が終わると、父親はすぐにいなくなり、母親がうちで夕飯を食べて行かないかと絢人と音椰に声を掛ける。
ふたりとも最初は遠慮したが、母親にいいから家に来なさいと言われて一緒に食べる事になった。
「まなみさん」
斎場から出ようとすると、叔父が母親に声を掛けた。
「誠二君、お久しぶりね」
「はい、そちらに伺いたいと思ってはいるのですが仕事が忙しくて……」
「あの人とは違って誠二君は真面目だからお仕事頑張ってるんでしょうけど、無理しないでね」
「ありがとうございます」
いつもは固い表情ばかりの叔父が今は柔らかな表情をしているように見える。
「あ、誠二君も一緒にうちでご飯食べましょうよ。うちの息子たちと音ちゃんも一緒だけど」
「え、それは、その……」
結局、叔父も母親からの誘いを断れずに家に来た。
「お通夜行くって決めてたから作っておいたのよ」
と話し、母親は店の中でおれたちに炊き込みご飯と豚汁を振る舞ってくれた。
「美味しいです、母上様」
おれの左隣で美味しそうに食べる絢人。
右隣には音椰がいて、同じように食べていた。
「ありがとう、絢人君。お代わりあるから良かったらしてね」
「はい、いただきます!」
おれにとっては定番のメニューだが、おれ以外にはとても美味しい料理だったらしい。
叔父も申し訳なさそうにしながら豚汁のお代わりをしていた。
「嬉しいわ、誠二君にもお代わりしてもらえるなんて」
「こんなに美味しい豚汁、初めて食べました」
「そんなに褒めても何も出ないわよ」
母親と話す叔父の顔は穏やかであり、以前聞いた話の事を思うと叔父は母親に好意を持っているように見えた。
「あなたはずっと変わらない。誰にでも光を与える太陽の様だ。それなのにあの男は……」
叔父は何か言いかけて口を噤んだ。
食事を終えると、叔父は音椰にあまり長居をしないようにと言って早々といなくなった。
「あんな顔の父さんを見たの初めてだったかも」
おれが用意したコーヒーを飲みながら、音椰は言った。
「おばさんの事、好きなのかなって思った。そうだったとして、それでおじさんの全てを否定しているとしたら、かなり軽蔑する」
母親と絢人が話しているのをよそに呟くように言った音椰の目は冷ややかなままに見えた。
「分からねぇけど、おれたちの父親はそもそもの考え方が違うんじゃねぇかな」
「お互い歩み寄れたら良かったのにね。ここまで来ちゃったら難しいのかもしれないけど……」
そう言って、音椰は母親に礼を言うと帰っていった。
「音椰さんと何のお話を?」
音椰がいなくなると、絢人が席を近づけて尋ねてくる。
母親が食器を洗っている最中の事だった。
「お互いの親の話をした」
「そうですか……」
寂しそうな顔をする絢人の膝上に、おれはカウンターの下で手を置いてやると、絢人はおれの手の上に自分のそれを重ね、指を絡めて手を握ってきた。
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