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第50話
翌朝。
少し怠さのあるカラダをなんとか動かし、おれは絢人を助手席に乗せて試合会場の体育館に向かった。
「おはよー」
「皆さん、おはようございます!」
「絢ちん今日も朝からスゲー爽やかだな」
チームに参加して少ししか経っていないが、絢人はメンバーといい関係を築いていて、弄られたりもして可愛いがられていた。
「おい犬養、お前いつもより顔白いけど大丈夫か?」
「あぁ、問題ない」
「首筋にそんな跡つけて来やがって。ヤリ過ぎて動けないとか勘弁してくれよ」
「てかお前の彼女、毎回スゲー跡つけるよな。愛されてるな、お前」
絢人がつけた跡の事でからかわれるおれ。
おれも絢人の胸元につけたが、服で隠れていて今のところ見つかっていない。
試合と言っても、近郊の市町でバレーボールをやっている社会人たちが集まって総当たりでゲームをするというもので、春秋の年に2回、持ち回りで体育館の予約や各チームへの連絡などを行っていた。
今回は隣市のチームが準備を進めてくれて、おれたちのチームを含めて5つのチームが参加する事になっていた。
「ねぇ、あの人たちって」
「雑誌にも出てたイケメン兄弟じゃない?わぁ、本物もめっちゃイケメン!!」
「さっき試合見てたんだけど、弟さんの方、サーブもスパイクもスゴくてカッコよかったよ!!」
「え〜、次の試合絶対観なきゃ」
他のチームの試合を見ていると、近くでそんな声が聞こえてくる。
「兄上様はどこでも大人気ですね」
「それはお前の方だろ」
席を詰めて座っている、という事にするつもりなのか、絢人とおれの距離はかなり近かった。
「あ、あの、犬養兼輔さんと絢人さんですよね?」
そこに、見知らぬ若い女性が話しかけてくる。
「はい、そうですが」
「いきなりすみません、ふたりのお写真を撮ってもよろしいでしょうか?」
女は自分は映らなくていいからおれたちの姿を自分のスマホに収めたい、と言ってきた。
「兄上様、1枚だけでしたらよろしいですか?」
「……そうだな、1枚だけなら」
「ありがとうございます!!」
絢人の言葉におれは乗った。
「じゃあ、撮りまーす!!!」
そう言ってすぐ、絢人はおれの肩を抱いてくる。
「素敵な1枚が撮れました!ありがとうございます!!」
女性は嬉しそうにしながら別の場所に向かっていく。
「あぁ、今の画像欲しかったです」
「要らねぇだろ」
残念そうにしている絢人におれは言った。
「そうだ、兄上様、今、俺のスマホで写真撮りましょう」
「何でだよ」
「前々から兄上様のTシャツ姿を写真に収めたいと思っていたんです。こちらのTシャツ、試合の時でなければ着ない特別なものですし…」
と、絢人はガキの頃と同じ笑顔で言ってくる。
「……っ、仕方ねぇな、1枚だけだぞ」
「ありがとうございます、兄上様」
おれが断れないのを分かっているよな、こいつ。
おまけに自撮りだから顔近づけないと撮れないとか言い出して、めちゃくちゃ顔近づけてきたりして。
「絢ちん、ホント兄貴の事好きだなー」
「彼女見たら嫉妬されんじゃね?犬養」
それをチームメイトに見られてからかわれて、おれはすごく恥ずかしかった。
が、スマホに送ってきてくれたその写真の絢人の笑顔が可愛らしくて、おれは恥ずかしい思いはしたが撮って良かったと思ってしまった。
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