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第51話

試合は絢人の活躍もあり、いつもは良くて3位だったおれたちのチームは今回初めて2位という結果を残した。 「これで音椰もいれば絶対優勝だったよな」 「だな。あいつが今日柔道の大会で来られなかったの、残念だったよな」 「…………」 チームメイトの中に町で焼肉屋を経営してる奴がいて、そいつの店で打ち上げをする事になっていたのでおれたちも参加していたのだが、音椰の話題が出ると、おれの隣で肉を食べていた絢人の動きが一瞬止まった。 「……音椰さんが欠席されたの、とても残念でした」 と絢人は話したが、おれには本心じゃないのが分かった。 「終わったらTシャツ着てこっち来るって言ってたから、揃ったところで記念撮影しようぜ」 その後、1時間くらいしてからチーム全員が着ている試合用に作った黒いTシャツを着た音椰が到着し、空いていたおれの向かい側に座った。 「みんな、お疲れ様!準優勝なんてすごいね」 「お前がいたら間違いなく優勝だったって、音椰」 音椰は大会の会場が母校の小学校で、店が徒歩で来られる範囲にあるので歩いてきたと言い、チームメイトに誘われた事もあってビールを頼んでいた。 「んじゃ、音椰も来たから乾杯しようぜ」 経営者の奴が全員にジョッキを持つように促し、乾杯の音頭を取る。 車で直行してきたおれ以外はビールやハイボールで乾杯し、おれはジンジャーエールの入ったグラスでその中に加わった。 その後記念撮影をして、打ち上げは始まった。 「お疲れ様、兼ちゃん。今日ずっと出てたんじゃない?大丈夫だった?」 「あぁ、大丈夫だったが後半は流石に少し足が追いついていなかったな」 おれの他にいる、もうひとりのセッター経験者の奴が仕事で来られなかったので、おれはずっと試合に出ていた。 「兄上様、俺はそんな事なかったと思いますよ?兄上様のトス、ずっと打ちやすかったですし」 音椰と話していると、絢人が入ってくる。 「そうなんだ。兼ちゃん、昔からずっとストイックだもんね……」 笑顔を見せながらも、その笑顔はどこか冷ややかに見える音椰。 「絢ちん、サービスエースだけで1ゲーム取った試合もあったんだぜ?マジ神ってたわ」 そこに、音椰と仲の良い奴が入ってきて音椰の隣に座る。 「へぇ、そんなに凄かったんだ。僕も見たかったなぁ」 確かに、あの迫力は凄かった。 打った時の音、相手チームのコートに飛んでいく時の音、そしてコートに落ちた時の音。 直撃を食らったら間違いなく負傷するレベルの威力があっただろう、と、チームメイトの話を聞いておれはその時の事を思い出していた。 「あれならアウトになってもおかしくないのに、アウトにならないで威力もスゴかったから、チートキャラとか言われてたんだよ」 「へぇ、確かに絢人くんって何もかも飛び抜けてるからチートキャラっぽいかも」 楽しそうに話す音椰の瞳の奥に、とても冷ややかなものがある気がした。 「お前だって人の事言えねーじゃん、音椰。普段弱そうなのに柔道着になったら無双状態だったじゃねーか」 「あはは、学生時代は確かにそうだったかもしれないけど、今はもう全然だよ。教えたり審判したりでほとんど実戦してないから」 ふたりが話に夢中になっていて、おれはそれを黙って聞いていると、絢人がおれの膝に手を載せてくる。 「どうした?」 何してんだ、と言いたかったが、そんな事を言えば今の状態を周りに知られてしまうから、おれは普通のトーンで絢人に言った。 「兄上様、お疲れではないかと思いまして」 と、絢人は酒が入ってるからか、頬を薄ら赤らめながら話す。 もしかして結構酔ってるのか、と思ったら、膝に載せていた手でおれの太腿を撫で始めた。 「帰ったら俺がマッサージして差し上げますから……」 「……ッ、おい、絢人、やめろって」 背筋がゾワッとして、変な声が出そうになった。 「兄上様……」 手を離したかと思えば、今度は人目も気にせずおれに抱きついてくる。 思った以上に酔っ払っているのか。 「えっ、絢ちん酔うの早くない!?」 「おいおい、絢ちん兄ちゃん好きすぎだろ」 「…………」 周りが絢人をからかう中、音椰だけは無言で、絢人を冷めた目で見ていた。 「……兼ちゃん、重たそうだね」 おれと目が合うと音椰は笑顔を見せてくれたが、やはり以前のものとは違った。

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