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第56話

「……絢人くん、兼ちゃんは寝てるけど」 音椰の声がすぐ傍で聞こえる。 「どうしてって言われてもね。ごめんね、昨日は僕もお酒を飲まされ過ぎてよく覚えていなくて。とりあえず兼ちゃんが起きたら送っていくから、じゃあ」 目を開くと、隣におれのスマホと音椰の姿が確認出来た。 「兼ちゃん、目が覚めた?おはよ」 「……おとや……」 頭が痛い。 喉もからからで、水が欲しい。 「水……」 出た声はスカスカだったが、音椰が今持ってくるね、と言って起き上がると、どこからか水の入ったペットボトルを持ってきてくれた。 音椰は見慣れない、ホテルにありそうな白いバスローブらしいのを着ていた。 「悪い」 「ううん」 起き上がったおれは裸で、着ていたものは見える範囲になかった。 「ここは?」 「どこかのホテルみたい。兼ちゃん、ごめんね、昨日は僕もお酒飲まされ過ぎちゃってどうして兼ちゃんとここにいるのかよく分からなくて」 「そうなのか……」 昨日の夜の事がよく分からない。 酒なんて飲んでいなかったような気がするが、思い出せない。 音椰も昨夜は割り当てられていた仕事をしていた事しか覚えていないと話し、おれたちが何故一緒にいたのかは分からずじまいだった。 「動けたらシャワー入った方がいいよ。僕もさっき入ってきたけどスッキリするから」 「あぁ……」 笑顔で話しているのに、音椰に対しておれはどこか冷たい印象を抱いた。

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