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第72話

父親に送ってもらって帰宅すると、絢人はおれを抱き締めてくる。 「俺……こんな事を思ってしまうのはいけない事だと思いますが、本当は嫌です。この手で父上様を手にかけなければいけないなんて……」 「絢人……」 きらきらの瞳から零れ落ちる、大粒の涙。 「父上様には俺たちに子供が産まれたらいっぱい可愛がって欲しいと思っていたのに……」 声を上げて泣き出す絢人。 「……お前は偉い。あんな自己中親父の前で自分の感情を全部殺したんだから。だが、これは遅かれ早かれやらなきゃいけない、避けられない事だとおれは思う」 一呼吸して、ぐちゃぐちゃになっている頭の中をなんとか整理して、そこから言葉を選んで。 そうして絢人の背中を手で摩りながら話しているうちに、おれの目の前が段々歪んでいった。 「兄上様……」 どうしちまったんだ、おれは。 悲しい事があったって、泣いた事なんかほとんどなかったのに。 どうして次から次へと涙が溢れてくるのだろう。 「……っ……」 絢人の胸に顔を押し付けようとすると、頬に手を添えられて上を向かされた。 「今夜だけは一緒に泣きましょう、兄上様」 涙の残る顔が近づいてくる。 キスを交わすと、おれたちは抱き合いながら泣いた。

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