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第74話
そこはおれがいた頃と何の変わりもない状態で、おれたちは泊まる時はこの部屋に布団を敷いて寝ていた。
「俺の母親も父上様に愛されていた頃があったのでしょうか」
寝る準備が終わって布団に入ろうとすると、絢人が呟くように言う。
「?どうした?絢人」
そんな様子が気になって、おれは布団の上に座った絢人の隣に並ぶ。
「俺、母親に良い思い出がないんです。いつも険しい顔をして、父上様の悪口ばかり言っていましたから。そんな人と何故父上様は結婚されたのかとずっと思っていましたが、俺の知らない過去にあの人にも愛されるだけの魅力があったのだとすれば、自分の中で納得出来ると思いまして……」
「そうか」
冷たく話す絢人の手の上に、おれは自分の手を重ねていた。
「子供は親が愛し合っているからこそ産まれるものですよね……」
すると、絢人はおれの手を握ってくる。
「恐らくな」
うちの場合はそれだけじゃねぇだろうけど、という言葉をおれは飲み込んだ。
おれ自身、というよりは絢人が、父親というか父親一族の為に作られた生命だという事を認めたくなかったから。
「兄上様、俺たちは子供にふたりで愛情をいっぱい注いで育てましょうね。俺たちの子供、兄上様そっくりの美しい子になるといいのですが……」
「……いや、お前に似てる方がいい。おれに似たらロクな人間にならない」
「そんな事ありません!兄上様は美も才も兼ね備えたこの世の誰よりも完璧なお方です!!」
と、うるさいくらい目を輝かせて大声で言い出す絢人の言葉が嬉しい反面、おれの事を神か何かと間違えていないかと思ってしまった。
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