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第83話
「兄上様!!!」
すると、絢人が大きな足音を立てながら近づいてきておれを抱き締めてくれた。
「あ……っ、、、」
「お辛い思いをさせてしまい、申し訳ございません」
おれは首を振った。
「絢人、見つかったか!?」
そこに、父親の声が聞こえてくる。
「はい、父上様、こちらにいらっしゃいます!!!」
「そうか、良かった……」
血だらけの狼の姿は黒い影になっておれの目の前に現れた。
「!!」
こんなの見た事がない。
父親に一体何が起きるんだ。
「……もう、死ぬんだ、俺は。恨みを背負ってな」
「父上様……」
「兼輔、絢人、こういう姿を見るのは俺が最後である事を願うよ」
どんな顔をしているのかも分からなくなった父親の姿に驚いていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「誰ですか!?」
絢人がおれを守るようにおれの前に立つ。
「……音椰……」
現れたのは、真っ青な……死を迎える人間の顔色をした叔父だった。
「音椰……!!!」
動く事のない音椰に駆け寄る叔父。
「音椰……どうしてお前が死ななければならなかったんだ……」
叔父は見開いていた音椰の瞳を閉じると、着ていた灰色のジャケットを音椰の顔に掛けた。
「お前の所為だ、全てお前の……!!!」
「!!!」
音椰が握っていたナイフを持った叔父は、物凄い形相で父親の方に向かい、ナイフを振り下ろそうとする。
「父上様!!!」
それを、黒い影……父親は唸り声を上げながら押さえていた。
「すぐにお前の息子たちもあの世に送ってやるから先に待っていろ、醜い死神め」
「うるせぇよ。死神になれなかった拗らせチキン野郎」
「黙れ!!」
「ぐ……うっ、、、」
父親の肩辺りにナイフが刺さっているように見える。
「殺してやる!!!お前さえいなければまなみさんは、音椰は……」
「ゔ……っ、ふざけた被害妄想しやがって」
「うるさい!!」
転げ回って揉み合うように見えるふたり。
「絢人!!!」
しばらくすると、黒い影が叔父を羽交い締めにする。
「早く、このまま俺とこいつを送ってくれ!!」
早くしろ!!!
と、父親が怒鳴るように言った。
「は……はい……」
青ざめた顔をしていた絢人だったが、深呼吸するとそのまま白いエゾオオカミの姿に変わる。
『父上様……どうぞ安らかに……』
絢人から放たれた光で、父親の姿は黒い影から白いエゾオオカミの姿に変わった。
『ありがとな、絢人。黒い影……人から強く妬まれたり恨まれたりした人間は向こうに行って審判に問われるのに、お前のチカラがそれをナシにしてくれた。俺はひと足お先に逝って三途の川の渡し守でもやってるから、お前らはすぐ来るんじゃねーぞ』
父親は動かなくなった叔父の襟元を咥えて持ち上げると、おれたちに背を向けた。
『はい、父上様。いつかまたお会いしましょう』
光が消えていくと共に、ふたりの姿もなくなっていった。
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