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第88話
帰りは父親の車をおれが運転して帰る事にした。
助手席に乗り込んだ絢人はおれが車を走らせてすぐにふふっ、と笑い声を出した。
「どうした?」
「当主の方の最後のお顔、面白かったなぁと思いまして」
「あぁ、そう言われれば」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたな、確かに。
と、おれはその時の当主の顔を思い出していた。
「母上様の事を酷く仰った方でしたので、何か一言申し上げたいと思っていたんです」
と、絢人は満足そうな顔をした。
「近いうちに兄上様と結婚指輪を見に行こうと思っていましたのに、この指輪を頂いてしまいましたから必要がなくなってしまった事、とても残念です。しかしこの指輪、不思議ですよね。俺の、最初は入るのかなと思うくらいきつかったんですが、丁度良い大きさになったんです」
「おれのは緩くてすぐ外れないかと思った」
「そうでしたか!身につける人に合わせて大きさが変わる凄い指輪なんですね」
「そうだな」
「こうして兄上様とお揃いの指輪を身につけられるなんて、とても幸せです」
そう言って、絢人は笑顔を見せた。
「兄上様」
「ん?」
「父上様のお車、俺が使ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうだな」
「練習、付き合って頂けますか?」
「分かった」
「ありがとうございます」
運転中、ふと見た絢人の横顔が父親に似ているような気がした。
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