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第89話

母親の元に戻ったおれたちは、昨夜の出来事を掻い摘んで話し、父親の煙草入れを見せた。 「あの人、墓なんか要らないって言ってた時があったんだけど、こういう事だったのね」 これ、昨日撮った写真と一緒にあたしの部屋に飾っていいかしら?と母親が尋ねてくる。 「勿論です」 「ありがとう、絢人君」 涙ぐむ母親を絢人は抱き締める。 「父上様の代わりにはなれませんが、母上様の事も兄上様の事も俺が守ってみせます」 「…………」 ありがとな、絢人。 どこからか父親の声が聞こえたかと思ったら、一瞬、抱き合うふたりを見て笑っている父親の姿がおれの目には見えた。 「おやじ」 おれが声を掛けると、 まなみの事、頼む。あと、元気な子を産めよ、兼輔。 と言って、父親の姿は消えていった。 「父上様がいらしたのですか?」 と絢人に聞かれたので見間違いかもしれないと応えると、 「あの人、天国に行けなくてフラフラしてるのかもしれないわね。ホント、どうしようもない人……」 と、母親が目を潤ませながら言った。

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