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第8話 食卓

授業が終わり、ロキとラムズは車に乗った。 家に食材がなかったので、近くのスーパーに寄ることにした。 「良かったら、今日から家事をやらせてください。居候してるのに、何もしないのは申し訳ないので…。」 「じゃあ、お言葉に甘えようかな。」 「今日の夕飯は何がいいですか?」 「じゃあ、ロキの得意料理を作ってほしい。」 ラムズは優しく微笑んで言った。 「それならカレーです!結構自信があります!カレールーを使わずに、スパイスだけで作ります!」 思わず声が大きくなった。 戦闘で落ち込みがちだったので、他にできることが出てきて良かった。 「それは楽しみだ。」 「母が病気がちだったんで、家事はよくやっていました。カレーは、両親も美味しいって言ってくれたんです。寮に入ってからは自分では作らないんで、誰かに食べてもらえるのは…嬉しいです。」 ロキは、3人で食卓を囲んでいた頃を思い出した。 「私も、地球に来てから誰かに作ってもらうことは滅多にないよ。いつも外食になってしまうね。そもそも家に帰らないし。」 「家に帰らないんですか?じゃあ、どこで寝るんですか?」 「学園内に理事専用の簡易宿泊部屋があるんだ。ホテルみたいな感じだよ。それで済んでしまうんだ。家に誰もいないなら、わざわざ帰る必要がないと思ってしまうんだよね。」 確かにラムズの家は生活感がなかった。 ラムズの家族はどんな人達なんだろう。 興味はあったが、家族の話は気軽に聞けなかった。 代わりに、ラムズが地球に来た理由を聞いた。 ラムズはしばし考えている様子を見せた。 「『宇宙の災厄』から、地球を守るためだよ。謎のクリーチャー、異能者の増加。それだけじゃなくなるかもしれない。そういう星の危機をまとめて、私たちは『宇宙の災厄』と呼んでいるんだ。」 「…地球って、そんなに危ないんですか…?」 「まだ、なんとも言えない…。ただ、私や一緒に戦った仲間からすると、地球は特別な星なんだ。だから、守りたいと思っている。」 ラムズはそれ以上話そうとしなかった。 深い事情がありそうで、ロキもそれ以上は聞けなかった。 ♢♢♢ スーパーに着いて、ラムズがカートを引き、ロキが食材をかごに入れていく。 異能者は過酷な過去を持つ者が多く、家族がいない人も多い。 だから寮制なのだ。 フレムは紛争地帯出身だし、リュウレイは大津波に遭った被災地出身だ。 皆、兄弟みたいに仲良く、楽しく過ごしている。 寮生活自体は好きだ。 けど、この久々の「家」という感じは、また違った良さがあった。 食材を買い、料理をする。 食べる、洗濯をする、掃除をする。 誰かと生活する温かさ。 ロキは、その懐かしさからワクワクしている自分がいることに気づいた。 ♢♢♢ 帰宅すると、早速料理に取り掛かった。 久しぶりで最初は味がブレがちだったが、なんとかまとまった。 食卓をセットし、いただきますをして食べ始める。 「ホントに、美味しいよ。」 ラムズが笑顔で褒めてくれた。 良かった、ちゃんと作れた。 「ターニャ先生が調合したハーブティーをもらったんだ。食後にいただこう。」 「本物の魔女のハーブティーって、すごそうですね。」 「リラックス効果があって、疲労が軽減するらしい。」 「それはありがたいです…。ターニャ先生は、どうして学園に来たんですか?」 「地球は、ある時期から魔法技術が後退して、宇宙の中では魔法後進国になったんだ。逆に魔法が使える魔女が迫害されたりね。そこにドゥルゴリー一族が現れて、魔法技術を体系化し、学問や兵器として発展させたんだ。そして、それを学ぶ者のために学園を作り、それを使って戦う者のために特殊警備隊を作ったんだ。」 ドゥルゴリー一族…。 実はドゥルゴリー学園長を一度も見たことはない。 他の生徒もそうだ。 「それを知ったターニャ先生は、魔法の使い手として、あるいは学び直しとして学園に来たんだ。ようやく魔女が社会的に評価される時代が来たんだよ。」 ターニャ先生にも色々背景があったのだ。 「まだまだ僕には知らないことがたくさんあるんだなって思いました…。」 「そうだね。私も、もっと時間があれば…もっと平和だったら…広く世界を知ることができたのに…と思ったことがあったよ。」 ラムズはいつも付けている青いピアスに触れながら言った。 地球に来る前の話だろうか。 「片付けは私がやろう。」 食べ終えると、ラムズは席を立った。

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