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第10話 女人化2日目

ベッドに横になり、自分の身に起こったことを思い出す。 いくら必要なこととはいえ、キスしてしまった。 奥手なロキは、女の子と今まで付き合ったことがない。 だからファーストキスだったのだ。 嫌かと言われれば、嫌ではなかった。 それって、自分はラムズ理事のことを好きなんだろうか? 恋なんだろうか?尊敬なんだろうか? 本格的な特訓は体が戻ってからにする、という話になった。 あんなキスをどれくらいするのだろう。 もしかしたら、今日は軽い方でもっとディープな時もあるかもしれない。 そして、ラムズ理事はどう感じているのだろう。 それなりに自分を好きでいてくれるのだろうか。 仕事としてやっているのだろうか。 キスひとつで、それ以外のことは考えられなくなっていた。 ラムズはソファで寝ている。 護衛をしているので、同じ部屋にいなくてはならないからだ。 近くて遠いラムズとの距離。 自分の唇にそっと触れてみる。 唇というものがこんなに柔らかいものとは思っていなかった。 ♢♢♢ 朝になり、身支度をして家を出る。 それまでの間に、おはようのキス、いただきますのキス、いってきますのキスだ。 恥ずかしくて、目が合わせられない。 そんな浮ついた気持ちのまま駐車場に着いた。 「本当は、ずっとそばにいてあげたいんだけど…。」 と、ラムズが言う。 ずっとそばにいられたら、何回キスすることになるんだろう。 「だ、大丈夫です!みんなもいるので!」 「そうだね。頑張って。」 そう言って、またキスをしてくれる。 このまま……二人きりでいたらダメな気がする……。 ロキは半ばボーッとしながらそう思った。 ♢♢♢ その日の学校は順調だった。 座学が多かったし、女の子の体つきにも慣れて、戦闘でもそれなりに動けた。 昼休み、フレムが言った。 「……ラムズ理事とはさ、何も無いよね?」 「何もって?」 「若い男女が一つ屋根の下で、変な気持ちにならない方がおかしいと思うんだ。」 そう言うフレムの様子を、リュウレイが解説した。 「フレムは、昨日から女子高生のお父さんみたいにロキを心配しているんです。」 「だって!ましてコンバート後の催淫効果が出てる状態なんだよ!仮に、俺がおかしくなったって、俺のことはみんなで止められると思うよ!でもラムズ理事が本気出したら、誰も止められないくらい強いじゃん?最強の護衛は最強の束縛っていうか……!」 「おかしくならない可能性が高いからラムズ理事が選ばれたわけであって。パラサイトバットごときの魔力で、ラムズ理事がおかしくなるとは思えませんが。」 「それもわかんないよ!催淫効果のせいにして、実は正気のままロキを手籠にするかもしれないじゃん……!」 「手籠って……。まあ、たしかに、フレムが言いたいことはわかります。私も、パラサイトバットの魔法に負ける可能性よりも、ラムズ理事が正気のままロキに迫る可能性の方があると思います。」 二人がロキをじっと見つめた。 「何言ってるんだよ、二人とも。今でこそ女の子だけど、結局僕は男だから……。」 「たぶん、ラムズ理事はそれ関係ないよ。はっきり言えばロキが好きだよ。いっそ、"俺が一生守るから、強くなんかならなくていい"とすら思っていそうだよ!それくらい日頃が甘々指導じゃん!」 フレムに言われて、ロキは胸が痛んだ。 たしかに、今までラムズに厳しくされたり、乱暴な指導を受けたことはなかった。 それは、すでにラムズが僕の強化を諦めていて、責任をもって僕を引き取ることすら考えていたからかもしれない……。 そうも考えれた。 「指導に手を抜いているかは考えすぎだと思いますけど……。とはいえ、はたから見て、ラムズ理事がロキを好きなのは明白ですから、ロキも心の準備というか、もし嫌ならハッキリ嫌と言わないといけないと思いますよ。」 リュウレイが保健の先生みたいなことを言う。 「う、うん。そうだね。二人ともアドバイスありがとう……。」 ロキはもやもやしたままその日の学校を終えた。 ♢♢♢ 理事室で待ち合わせて、車に乗って、買い物をして帰る。 じゃあ帰ろうか、のキス、車出すよ、のキスに、ただいまのキス。 うん、慣れてきた。 あれだ、外人さんの挨拶だよ。 そう思いながら料理をする。 今日はオムライスとスープだ。 美味しそうだね、とラムズは言いながら、具材を炒めているロキのそばに立ち、腰に手を回す。 一瞬、ドキッとした。 スキンシップも……エネルギーを渡す手段の一つだから、これも大事な訓練なの……。 と、自分に言い聞かせた。 ♢♢♢ 夕食を終え、お風呂を済ませて、またハーブティーを飲みながら戦闘のことについて色々質問をした。 「私自身はあまり理屈がわからないんだけど、一緒に修行をしていた先輩がそういうことをちゃんと説明できる人だったんだ……。色々教えてもらって助かったよ。だからこうしてロキにも教えられる。」 ラムズは懐かしむような目をした。 急にラムズの人間らしい表情が見えて、ロキはラムズのプライベートにも興味が出てきた。 「ラムズ理事と一緒に修行できるなんて、その先輩も相当強いんですね。」 「ああ。その人も、この秘密の特訓をしたんだよ。」 秘密……やっぱりキスありきのこの特訓は、姜王国でも大っぴらではないんだ……。 「姜王国の時は、危機が迫っていたから、もっと急いでエネルギーをわけてもらったんだよ。」 「それってどうするんですか?」 「キス以上のことが必要なんだ。」 ロキは固まった。 キス以上なんて、そんなの、アレしか考えられなくない? 「ロキも、もう少し急ぎたい?」 ラムズが真顔で聞いてくる。 昨日、あんなに男気を見せたのに、急がなくていいとは言えない。 「……は、はい……!」 ロキは覚悟した。 今日、処女を失うかもしれない。 でもそれは強くなるためなのだ。 相手も尊敬するラムズだし。 手段と目的が繋がってないように見えるのは、自分が未熟なせいだから、と自分を納得させた。 「わかったよ。」 ラムズはそう言うと、隣に座っているロキを抱き寄せた。 今までは、ラムズが頭を寄せてキスをしていたが、今は抱きしめられて体も密着する。 ロキは手のやり場に困ったが、結局ラムズの背中に手を回した。 ラムズの唇が重なる。 唇を柔らかく挟まれる。 舌で唇を舐められ、チュッチュッと部屋に音が響く。 「んっ……。」 思わず声が出た。 もぅ…特訓とか……強くなるとか……考えられない……。 ラムズの舌が入って、思わず腰がのけぞった。 しっかり頭と腰を支えられているから、キスからは一時も逃げられない。 しばらくキスをして、ようやくラムズの手が緩んだ。 ロキは顔を見られるのが恥ずかしくて、ラムズに抱きついた。 もう、ふにゃふにゃだ。 「今日は一緒のベッドに寝てもいいかな?」 ラムズは落ち着いた声で言った。 「はい……。」 もう、そう返事をするしかなかった。

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