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第12話 パラサイトバットの襲撃

「魔物の気配がする!」 フレムに向かってそう叫び、ロキは倉庫から飛び出そうとした。 すると、片腕を強い力で捕まれ、後ろに体ごと引っ張られた。 床に倒され、気づくとこの一瞬で自分の両手が床に固定されていた。 パラサイトバットの粘着ひもだ。 さらに口にも粘着ひもがテープのように巻きついてきて、声が出せなくなった。 『この彼は君の好きな人とは違ったんだね。サービスで、せめて君の意中の人に擬態しようとしたのだが。まあこの彼で我慢してくれ。さあ花嫁、約束通り、迎えに来たよ。』 パラサイトバットがフレムに擬態していたんだ! そう気づいたところで、粘着ひもの強力な魔法で動けない。 これまでの資料には、パラサイトバットがそんな高度なことをするとは書いていなかった。 やはり実戦は油断できない……!としみじみわかったところで、もはやどうしようもない。 フレムの姿をしたパラサイトバットが近づいてきて、ロキのブラウスを破き、胸が露わになる。 スカートの中に手が入り、太ももにパラサイトバットの冷たい手の感触がした。 もうダメだ…! そう思ったとき、銃声が聞こえた。 ドン!ドン!ドン!と3発鳴る。 『ガ!アアッ‼︎』 撃たれたパラサイトバットは擬態が解けて、元のコウモリのような姿に戻った。 「よくも俺になりすましてくれたな…!」 フレムが倉庫に入ってきた。 レーザーガンを撃ったのはフレムだった。 「ロキ!怖い思いをさせてすみません。護衛を緩くして、奴を誘い出す作戦だったんです。」 リュウレイがロキに駆け寄り、溶解液をかけ始めた。 「フレム、生捕りにするのよ。こいつのことは徹底解剖してやるんだから!」 ターニャ先生も一緒だ。 「こいつのせいでロキは……ラムズ理事と暮らすことになっちゃったし!チューされてるんだからな!」 どうやら、車中のキスを見られてたらしい。 フレムは手際よく、だが渾身の恨みを込めてパラサイトバットを拘束した。 「これでパラサイトバットの討伐は終わりよ。ロキ、フレム、リュウレイ、よく頑張ったわ。私はコイツを研究所に連れて行くから。ロキは安心してゆっくり休んでね。まあ、パラサイトバットよりラムズ理事の方が厄介だから、そっちは安心できるかはちょっとわからないけど……。」 まず頑張ってね、と、肩を叩かれた。 そしてターニャ先生はパラサイトバットを引きずって行ってしまった。 「2人とも本当にありがとう。作戦とは言え…ちょっと怖かったよ。」 ホッとしたら、なんだか笑えてきた。 「本当にすみません。我々も、まさか擬態までするとは想定していませんでした。」 リュウレイは申し訳なさそうな顔をしている。 「あのさ…。」 フレムが口を開いた。 「さっきの偽フレムの告白なんだけど…。ロキの返事は…ちゃんと本当の気持ちなんだよね…?」 「え?うん、そうだね。僕は、あれが偽者だって気づいてなかったから、本当のフレムだと思って話してたよ。」 今度はリュウレイが笑い始めた。 「フレムは、あの偽者の告白通り、ロキのことが好きになったんです。それで、今日告白するつもりだったんですよ。俺は、やめた方がいいって止めたんですけど。多分、パラサイトバットは、俺たちの会話を盗み聞いていて、そのまま擬態の演技に利用したんでしょうね。」 リュウレイは笑いが止まらない。 「笑いすぎだぞリュウレイ!」 フレムは顔を真っ赤にしている。 「だって…自分で告白してないのに振られるなんて…かわいそうだなと思って…!まして、今日はキスまで目撃しちゃいましたからね。散々だなと……!」 リュウレイはツボにハマったらしく、涙目で笑っている。 「ロキ…まあ、そういうことで、ロキが男に戻ったら違うかもしれないけど、今は、その…好きなんだ。別にロキが友達として…でもいいんだ。ロキもラムズ理事が好きだからキスしてるんだろうし…。うん、いいんだ、ロキが幸せなら。」 フレムは自分で自分の気持ちをフォローした。 「うん。僕もフレムのこと好きだよ。同じようにリュウレイのことも、ターニャ先生のことも好きだよ。これからも…よろしくね。」 フレムは微笑んだロキのことをやっぱり可愛いな…と思うと同時に、さっきのセリフの中にラムズがいないことがすごく気になった。 リュウレイはまだ笑い続けていた。

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