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第20話 奇襲

数日後、その日はたまたま姜王国に伝わる怪談話になった。 ウェンが小さい頃に聞かされた話で、本にもなっている。 ラムズにその本を渡すと、しばらく読んでいたがいきなり本を閉じて、積んである他の本の間に入れてしまった。 ちょっと震えている気がする。 怖かったのだろうか。 いつものようにおやすみの挨拶をしたが、なかなか部屋に行かないのでやっぱり怖かったのかもしれない。 「まあ、どうせ作り話だよ。でも、もし怖くなったらいつでも部屋に来なさい」 そう言って頭を撫でると、ラムズは小さく頷いた。 ♢♢♢ 部屋に入り、ラムズが来る様子もなかったので、ウェンも眠りについた。 どれくらい寝ていたかはわからないが、ふと、ドアが開いた気がした。 ラムズの気配だったので、ウェンは寝ぼけたままこちらに来るのを待っていた。 一歩一歩近づいてくるが、その圧に覚えがあった。 ラムズじゃない……!! 気づいた時には遅く、両手首を掴まれ組み敷かれた。 「ア、アシュラス……!!」 「パーティ-に来ないから、こっちから来てやったよ」 アシュラスからは怒りが滲み出ていて、無表情で見下ろしている。 気配が似ていたのでラムズと思い込み、油断してしまっていた。 「小屋に結界も張らず、無防備だな」 「まさか帝王がこんな街外れに来るとは思わないだろ!」 逃れようともがくが、体格がほぼ同じなのにびくともしない。 「まあいい。お前はまだ自分の立場がわかっていないようだから、今から体で教えてやるよ」 アシュラスはウェンの唇に噛みついた。 唇が切れて血の味がする。 アシュラスの舌が傷を舐めながらウェンの口に入ってくる。 「はぁ…っ…やめ…ろっ!」 血と唾液でぬちゃぬちゃと音がする。 「んっ! くぅっ……!」 糸を引きながらアシュラスは唇を離した。 「俺の体液には体を興奮させる作用がある。じきにお前も、発情した犬がせがむように俺を求めるようになるさ」 アシュラスは自分の唇を舐めながら言った。 自分の心臓の鼓動が大きくなっていく。 寝巻きに肌がわずかに擦れても、感じてしまう。 アシュラスが首筋に舌を這わせた。 「あっ……んんっ」 帯がゆるんで、胸元がはだけたところで乳首も吸いつかれる。 「うあっ……あっ……」 ウェンは腰をのけぞらせた。 「なかなか感度がいいじゃないか。このまま大人しく俺に体で奉仕するなら今回の無礼は許してやる。さあ、淫に許しをこうんだ」 「……なんでお前なんかに許してもらわなきゃいけないんだよ。俺はちゃんと正式な手続きをして欠席したんだ……!」 「こんな状況で口ごたえか。お前は馬鹿か、犯られたい変態のどっちかだ」 アシュラスが自分の左の指を噛むと、血が溢れ、その血が紐状になり、ウェンの手首とベッドを繋いだ。 「ぐっ!」 細い紐にも関わらず鉄の手錠のように固く押さえられる。 帯がほどかれ、アシュラスの冷たい手が、胸から腹筋をなぞり足の付け根をなでた。 ウェンの荒い呼吸が部屋に響く。 「フェイオンも不憫だな。息子がこんな馬鹿正直で、男のものを咥えたくて仕方ない変態に成り下がるとは」 「うるさい! 父の名を気安く呼ぶな! それに俺はそんなことはしない!」 「こんなになっておいて、説得力がないねぇ」 アシュラスはウェンの固くなったそれを握ってしごき始めた。 「……っ!!」 「まあ、強制的にお前をぶっ壊してもいいんだが、俺の部下として可愛らしくおねだりするなら考えてやる。俺は、懐いた部下には優しいんだよ」 アシュラスの手がより強くなる。 「あっ……く……お、お前に懐いてるような外道な部下と同じになるなら、死んだ方がマシだ……」 「……プライドの高さは身を滅ぼすよ?」 アシュラスの傷口から、一匹の蛇が現れた。 「お前みたいな馬鹿でも部下は部下だ。俺も人が良すぎるとは思うが、お前が気持ちよくなるように開発を手伝ってやるよ」 蛇はウェンの太ももに巻きつき、股からウェンの中に入ろうとする。 「うあっ……」 「こいつがお前の中の気持ちいいポイントを刺激してくれる。もうこいつ無しでは生きられなくなるぞ。さらに刺激が欲しくなったら、俺が遊んでやる」 蛇の頭が徐々に入っていく感触がわかる。 戦いに負けるというのは、こういうことだ。 強くなければ、どこまでも凌辱される。 悔し涙が滲んだ。 ガチャ、と音がした。 急にドアが開いて、ウェンとアシュラスは目をやった。 そこにラムズがいた。 「ラムズ! 来るな! 逃げなさい!」 ラムズなどアシュラスからすれば簡単に消し飛ばせる。 だが、ラムズは逃げずに、部屋に置いてあったレーザーソードのグリップを掴んだ。 まだ魔力も気の訓練もしていないラムズに、レーザーソードが使えるはずがない……! ウェンはそう思ったが、ラムズの手に見事なソードが出来上がった。 ラムズは大きく振りかぶってアシュラスを切り付けようとした。 アシュラスはプロテクトを張り、レーザーソードとぶつかって衝撃が生まれる。 その衝撃で、ラムズは部屋の端まで吹っ飛ばされた。 プロテクトを張ったせいで、ウェンの拘束と蛇の術は消えていた。 ウェンはベッドの隙間に隠していた短剣を引き抜き、アシュラスの喉元に突きつけた。 アシュラスは顔色一つ変えずに、じっとウェンを見ている。 今、戦って勝てる相手ではないのはわかっている。 このままでは俺もラムズも殺される確率が高い。 何か、何か手を考えなくては……! ウェンの額から汗がこぼれた。 アシュラスは短剣などそこに無いかのように、ウェンの頬に手を当て、顔を近づけた。 「なるほど、今、お前の瞳が赤くなっているのは、ラムズが攻撃を受けたからか。お前が、血の契約をしたにも関わらず、俺のものにならない理由がわかった。お前は、主を俺ではなくラムズだと誤解している。遺伝子情報が近いからな」 「……だから、何だよ……」 「あんだけ俺の唾液を飲んでおいて、発情が弱いのもおかしいと思ったんだ。普通ならあれで簡単にケツを振る」 想像して、ウェンは吐き気をもよおした。 アシュラスは、短剣を持つウェンの手を静かに押し退けて、ベッドから立ち上がった。 「今日のところは帰るよ。血の契約がうまく行ってない理由がわかったのは収穫た。ま、このままにはしておかないけどな」 アシュラスはドアに向かって歩き始めたが、一度足を止めて、膝をついたままレーザーソードを構えるラムズに言った。 「ウェンの主人は俺だ。いい気になるなよ」 殺意のこもった目だった。 それでもラムズは目を逸らすことなく、アシュラスを睨んでいた。 ♢♢♢ アシュラスが去り、ウェンは寝巻きを着直して帯を締めた。 ラムズがそばに来て、ウェンの口元の血を袖で拭った。 「ラムズ……ありがとう。心配してくれてるんだね」 うなずくラムズの頭をなでた。 ラムズはウェンにキュッと抱きついた。 ホッとした気持ちもあって、ウェンもラムズを抱きしめた。 強くなりたい…… 自分やラムズを守るために…… ふと、アシュラスに押し倒されたとき、体格が同じにも関わらず、全く動けなかったことを思い出した。 何か、筋力以外の力の差がありそうだった。 ラムズも、いきなりレーザーソードを使いこなしていた。 レーザーソードは、使う側の力量によって、ソードの攻撃力が変わる。 ラムズのソードの強さは最高度に達していると感じた。 アシュラスの強さの秘密は、ラムズと同じではなかろうか。 ウェンは新しい可能性に胸の高鳴りを感じた。

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