20 / 35
第20話 奇襲
数日後、その日はたまたま姜王国に伝わる怪談話になった。
ウェンが小さい頃に聞かされた話で、本にもなっている。
ラムズにその本を渡すと、しばらく読んでいたがいきなり本を閉じて、積んである他の本の間に入れてしまった。
ちょっと震えている気がする。
怖かったのだろうか。
いつものようにおやすみの挨拶をしたが、なかなか部屋に行かないのでやっぱり怖かったのかもしれない。
「まあ、どうせ作り話だよ。でも、もし怖くなったらいつでも部屋に来なさい」
そう言って頭を撫でると、ラムズは小さく頷いた。
♢♢♢
部屋に入り、ラムズが来る様子もなかったので、ウェンも眠りについた。
どれくらい寝ていたかはわからないが、ふと、ドアが開いた気がした。
ラムズの気配だったので、ウェンは寝ぼけたままこちらに来るのを待っていた。
一歩一歩近づいてくるが、その圧に覚えがあった。
ラムズじゃない……!!
気づいた時には遅く、両手首を掴まれ組み敷かれた。
「ア、アシュラス……!!」
「パーティ-に来ないから、こっちから来てやったよ」
アシュラスからは怒りが滲み出ていて、無表情で見下ろしている。
気配が似ていたのでラムズと思い込み、油断してしまっていた。
「小屋に結界も張らず、無防備だな」
「まさか帝王がこんな街外れに来るとは思わないだろ!」
逃れようともがくが、体格がほぼ同じなのにびくともしない。
「まあいい。お前はまだ自分の立場がわかっていないようだから、今から体で教えてやるよ」
アシュラスはウェンの唇に噛みついた。
唇が切れて血の味がする。
アシュラスの舌が傷を舐めながらウェンの口に入ってくる。
「はぁ…っ…やめ…ろっ!」
血と唾液でぬちゃぬちゃと音がする。
「んっ! くぅっ……!」
糸を引きながらアシュラスは唇を離した。
「俺の体液には体を興奮させる作用がある。じきにお前も、発情した犬がせがむように俺を求めるようになるさ」
アシュラスは自分の唇を舐めながら言った。
自分の心臓の鼓動が大きくなっていく。
寝巻きに肌がわずかに擦れても、感じてしまう。
アシュラスが首筋に舌を這わせた。
「あっ……んんっ」
帯がゆるんで、胸元がはだけたところで乳首も吸いつかれる。
「うあっ……あっ……」
ウェンは腰をのけぞらせた。
「なかなか感度がいいじゃないか。このまま大人しく俺に体で奉仕するなら今回の無礼は許してやる。さあ、淫に許しをこうんだ」
「……なんでお前なんかに許してもらわなきゃいけないんだよ。俺はちゃんと正式な手続きをして欠席したんだ……!」
「こんな状況で口ごたえか。お前は馬鹿か、犯られたい変態のどっちかだ」
アシュラスが自分の左の指を噛むと、血が溢れ、その血が紐状になり、ウェンの手首とベッドを繋いだ。
「ぐっ!」
細い紐にも関わらず鉄の手錠のように固く押さえられる。
帯がほどかれ、アシュラスの冷たい手が、胸から腹筋をなぞり足の付け根をなでた。
ウェンの荒い呼吸が部屋に響く。
「フェイオンも不憫だな。息子がこんな馬鹿正直で、男のものを咥えたくて仕方ない変態に成り下がるとは」
「うるさい! 父の名を気安く呼ぶな! それに俺はそんなことはしない!」
「こんなになっておいて、説得力がないねぇ」
アシュラスはウェンの固くなったそれを握ってしごき始めた。
「……っ!!」
「まあ、強制的にお前をぶっ壊してもいいんだが、俺の部下として可愛らしくおねだりするなら考えてやる。俺は、懐いた部下には優しいんだよ」
アシュラスの手がより強くなる。
「あっ……く……お、お前に懐いてるような外道な部下と同じになるなら、死んだ方がマシだ……」
「……プライドの高さは身を滅ぼすよ?」
アシュラスの傷口から、一匹の蛇が現れた。
「お前みたいな馬鹿でも部下は部下だ。俺も人が良すぎるとは思うが、お前が気持ちよくなるように開発を手伝ってやるよ」
蛇はウェンの太ももに巻きつき、股からウェンの中に入ろうとする。
「うあっ……」
「こいつがお前の中の気持ちいいポイントを刺激してくれる。もうこいつ無しでは生きられなくなるぞ。さらに刺激が欲しくなったら、俺が遊んでやる」
蛇の頭が徐々に入っていく感触がわかる。
戦いに負けるというのは、こういうことだ。
強くなければ、どこまでも凌辱される。
悔し涙が滲んだ。
ガチャ、と音がした。
急にドアが開いて、ウェンとアシュラスは目をやった。
そこにラムズがいた。
「ラムズ! 来るな! 逃げなさい!」
ラムズなどアシュラスからすれば簡単に消し飛ばせる。
だが、ラムズは逃げずに、部屋に置いてあったレーザーソードのグリップを掴んだ。
まだ魔力も気の訓練もしていないラムズに、レーザーソードが使えるはずがない……!
ウェンはそう思ったが、ラムズの手に見事なソードが出来上がった。
ラムズは大きく振りかぶってアシュラスを切り付けようとした。
アシュラスはプロテクトを張り、レーザーソードとぶつかって衝撃が生まれる。
その衝撃で、ラムズは部屋の端まで吹っ飛ばされた。
プロテクトを張ったせいで、ウェンの拘束と蛇の術は消えていた。
ウェンはベッドの隙間に隠していた短剣を引き抜き、アシュラスの喉元に突きつけた。
アシュラスは顔色一つ変えずに、じっとウェンを見ている。
今、戦って勝てる相手ではないのはわかっている。
このままでは俺もラムズも殺される確率が高い。
何か、何か手を考えなくては……!
ウェンの額から汗がこぼれた。
アシュラスは短剣などそこに無いかのように、ウェンの頬に手を当て、顔を近づけた。
「なるほど、今、お前の瞳が赤くなっているのは、ラムズが攻撃を受けたからか。お前が、血の契約をしたにも関わらず、俺のものにならない理由がわかった。お前は、主を俺ではなくラムズだと誤解している。遺伝子情報が近いからな」
「……だから、何だよ……」
「あんだけ俺の唾液を飲んでおいて、発情が弱いのもおかしいと思ったんだ。普通ならあれで簡単にケツを振る」
想像して、ウェンは吐き気をもよおした。
アシュラスは、短剣を持つウェンの手を静かに押し退けて、ベッドから立ち上がった。
「今日のところは帰るよ。血の契約がうまく行ってない理由がわかったのは収穫た。ま、このままにはしておかないけどな」
アシュラスはドアに向かって歩き始めたが、一度足を止めて、膝をついたままレーザーソードを構えるラムズに言った。
「ウェンの主人は俺だ。いい気になるなよ」
殺意のこもった目だった。
それでもラムズは目を逸らすことなく、アシュラスを睨んでいた。
♢♢♢
アシュラスが去り、ウェンは寝巻きを着直して帯を締めた。
ラムズがそばに来て、ウェンの口元の血を袖で拭った。
「ラムズ……ありがとう。心配してくれてるんだね」
うなずくラムズの頭をなでた。
ラムズはウェンにキュッと抱きついた。
ホッとした気持ちもあって、ウェンもラムズを抱きしめた。
強くなりたい……
自分やラムズを守るために……
ふと、アシュラスに押し倒されたとき、体格が同じにも関わらず、全く動けなかったことを思い出した。
何か、筋力以外の力の差がありそうだった。
ラムズも、いきなりレーザーソードを使いこなしていた。
レーザーソードは、使う側の力量によって、ソードの攻撃力が変わる。
ラムズのソードの強さは最高度に達していると感じた。
アシュラスの強さの秘密は、ラムズと同じではなかろうか。
ウェンは新しい可能性に胸の高鳴りを感じた。
ともだちにシェアしよう!