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第21話 三つの聖典

翌日、ウェンとラムズは机を挟んで向き合って座った。 机の上にはたくさんの冊子や本があり、そして木刀があった。 「ラムズ、昨日はありがとう。お前のおかげで助かったよ」 ラムズは黙ってウェンの顔を見つめている。 「あれから考えたんだが、ラムズが良ければ、姜王国の三つの聖典を学び、戦士として俺と一緒に戦ってくれないか?」 ラムズに刀を持たせることについて、散々考えた。 アシュラスの子だ。 いつ豹変するかわからない。 だが、これまでの生活や昨日のことを思うと、あの父親と一緒にするのは申し訳ない気がした。 ラムズを信じたかった。 「聖典は『地』『武』『道』の三つ。『地』は、土地の成り立ちや流れについての話で、都の作りや結界に関係がある。『武』は、技や戦争について。『道』は、人や国家が進むべき道筋を示している。どれも関わりが深いから、学ぶなら三つ全て学ぶことになる」 ウェンは、父が遺した聖典の写しを広げてみせた。 ラムズもじっとそれを見る。 「前置きは長くなったけど…。俺は、武力をただの暴力じゃなくて、平和のために使いたいんだ。その原点がこの三つの聖典だと思っている。それを、ラムズと一緒にやりたいんだ」 ラムズは再びウェンを見た。 「もし、そうしてくれるなら、その木刀を手にとってくれ。リィ家代々受け継いできた初心の木刀だ」 ラムズは頷いた。 そして、ためらうことなく、すぐに木刀を手にとった。 無表情のままだが、目の奥に意思を感じた。 「ありがとう、ラムズ……。俺も改めてがんばるよ」 心なし、ラムズの表情もゆるんだ気がした。 ♢♢♢ レーザーソードは簡易な武器なので、技を出すには耐久性がない。 技の威力が加わるなら、まだ木刀の方が適している。 二人は小屋の裏の木々が立ち並ぶところへ出た。 「座学もやるけど、今日はどんなものか実践してみようと思う」 ウェンは少し離れた細い木を指差した。 「どんなものにも核がある。そこにこちらの攻撃を当てると相手を打ち破ることができる。核をとらえるように見ることを"真眼"と呼んでいるよ。さらに、自分と相手の核をつなぐ道筋もあって、それをなぞるように攻撃を乗せるとスムーズに攻撃が入る。それらが常時見えるように訓練するんだ」 ウェンは静かに刀を構えた。 「こういう感じになる。」 ウェンが刀を振ると衝撃波が放たれ、木が斜めに切れて倒れた。 「まあ、真眼ができるようになるにも数年かかるし、攻撃をまともに繰り出すのも修行が必要だ。まずコツコツやるしかないね」 そう言ってラムズを見ると、ラムズはウェンと全く同じ構えを取り始めた。 ラムズはこれまでも、何を教えてもすぐ真似てできるようになる。 だが、さすがに剣技は……。 そう思っていると、ラムズは木刀を振り下ろした。 衝撃波が放たれ、ウェンが倒した木の隣の木が倒れた。 「うそだろ……」 見ただけで、できるようになってしまった。 ラムズをみると、ラムズは心配そうな顔でこちらを見ている。 「す、すごいな、たった一言教わっただけでできるようになるなんて」 ラムズは微妙に悲しそうにしているような気がした。 自分だったらうまくできたことが嬉しい気がするが、ラムズはそういう性格ではないらしい。 ウェンは、ラムズの頭をなでた。 すると、ラムズはちょっと目を細めて、嬉しそうにしているように見えた。 もしかしたら、ラムズは大して何も考えていないのかもしれない。 目的や完成度ではなく、今はただ、褒められたいのではないだろうか。 ウェンはラムズをなでたときに、アシュラスの力と同じようなものを感じた。 「もう一回やってくれる?」 ラムズは頷くと、構えて、斬った。 すでにさっきよりもさまになっている。 ラムズを真眼で見ると、ラムズは木刀にも気を纏わせ、普通の刀以上の武器に変えていた。 おそらく真眼は素でできているのだろう。 全身の気が、スムーズに木刀に集まり、抵抗なく放たれている。 簡単に言えば、完璧だった。 無駄や力みがない。 風が吹いたら木々が揺れる、というくらい自然な流れだった。 聖典の修行では、いかなるときも平常心を保って真眼ができるように、瞑想で心を整えることが肝心になる。 ラムズの無感情さは、この境地なのかもしれない。 ラムズはまたウェンを見ている。 「すごいな、俺の方が勉強になったよ」 ウェンは自然と笑顔になり、また頭をなでた。 一瞬、ラムズも微笑んだ気がした。 その表情についつい驚いてしまったが、こうやって交流していればラムズもちゃんと笑えるようになるかもしれない。

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