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第22話 親善試合の招待

ドレイクが定期報告に来たので、ラムズの成長ぶりについて話し、小屋の裏も見せた。 大木も含めて、かなりの量の木がラムズによって斬り倒されている。 「なんて凄まじい……」 ドレイクがため息まじりに言った。 「やはりアシュラスの遺伝子だからの才能なんだろうか」 「そうだと思います。アシュラスが他の人間と違うのは、生命が誕生してからの全ての情報が圧縮されている遺伝子情報を自由自在に扱えるからと言われています。私もアシュラスの血はひいてますが、アシュラスの子どもはほとんど母方の遺伝子が発現するようで、見た目も能力も何も似ていません。ラムズは見た目通り、アシュラスの血が濃いのでしょう」 「ちなみに、ラムズの母親は誰なんです?」 「わかりません。噂ではずっと一緒にいる大帝国のブレーン、ティス様だという話もありますが」 「ティスは女なんですか?!」 「ええ、そうです。片目が見えず、皮膚は病気でまだらなんです。ティス様ほどの力があれば、治療できそうなんですが、治そうとしない理由があるみたいで」 アシュラスのそばに、そんな繊細な女性がいるのは信じられなかった。 「アシュラスとティス様がどこの生まれで、どんないきさつで一緒にいるのかはわかりません。そのことを詮索すると大抵いわれのない罪を着せられ、制裁を加えられます。タブーな話なのです」 「なるほど、弱点ではあるのですね」 「逆鱗とも言えるので、くれぐれもご注意を……。あと、私から二つお話があります」 ドレイクは布をとり、刀を取り出した。 「妖刀、鬼切丸。修理が終わりました」 ウェンは鬼切丸を受け取り、鞘から抜いた。 刃が怪しく光る。 父が亡くなり、初めてこれを持ったときは、自分が鬼切丸に食われそうだと思った。 鬼切丸は、この地にいた悪鬼を姜一族が倒したときに使われたものだ。 そして姜一族はそのままその地に居住し始め、そこから周辺部族や国をまとめて統一を果たした。 聖典は、姜一族が他を統治することを許された民族の証であり、鬼切丸はその聖典を守る使命を与えられた者に授けられた。 それがリィ一族だったのだ。 「ラムズを見て気づいたのだが、ラムズは己の気を木刀に纏わせて、まるで体の一部にしている。俺は、鬼切丸にそんなことをしたことがなかった。鬼切丸が折れたのは、俺の焦りからくる気の乱れを表していたんだろう……」 「私はまたウェン様の剣技をこの目で見たいと思っていますが……」 「そうだな。ラムズと修行を再開して、初心に返ったよ」 ドレイクはホッとした表情をした。 「もう一つの話ですが、アシュラスから親善試合の招待が来ました」 「親善試合?」 「はい、今までアシュラスは他国を乗っ取って軍部を強化してきました。だから自前の部隊は持っていなかったのです。そこで、自分が育てた部隊ができたので例のスタジアムで試合をしよう、ということになったらしいのです。大帝国軍第二部隊と名乗っています」 「なるほど……。じゃあうちの部隊と第二部隊が戦うということだね」 「はい、武器は自由とのことで、こちらはレーザーガンとレーザーソードになるかと。大帝国軍第一部隊になってから、早一年。刀での修行は……後退しています。ならば慣れている武器で……と考えています」 手にした鬼切丸が急に重たく感じた。 「わかった。わがままを承知で言うが、隊員のことはまだトトとドレイクに任せたい。申し訳ないが……」 「承知いたしました。ただ、隊員たちは、ウェン様に会いたがっています。そこは、心に留めていただければ……」 「……ああ、申し訳ない」 一時期の隊員たちへの罪悪感は薄れていったが、それはあくまでラムズの中にアシュラス攻略の可能性を見たからだ。 それを明確にして隊員たちと共有すればいい。 それが隊に戻れるきっかけになる、と計算している自分がいる。 だが、隊員たちは賢い。 そんな理屈の手土産では、心は戻らないだろう。 今更、隊員たちと会って、部隊長に戻れるんだろうか。 ウェンは鬼切丸を見つめた。 そこへ、ラムズがやってきた。 いつもの挨拶をする。 ドレイクも礼儀正しく挨拶を返した。 ドレイクはまじまじとラムズを見て言った。 「ラムズは一体何歳くらいなんでしょう。まだ背も伸びないし、修行を始めたばかりで、筋力もこれからですね」 「そうだね、まだ内面的にも子どもな感じはするんだが……」 ラムズがウェンの隣に来たので、ウェンは頭をなでた。 ラムズは大きく澄んだ目でウェンを見つめている。 「……ウェン様、アシュラスの前ではラムズと親しげにするのは控えた方が良いかもしれません。」 「え?どうして?」 「大した話じゃなかったんで、言わなかったのですが、スタジアム完成記念式典を欠席したとき、私はアシュラスに呼びつけられて小1時間クレームを受けました」 「そ、それは申し訳なかった」 「『アイツは恩知らずだ』とか『俺の偉大さがわかっていない』とか、内容はくだらないのですが、ウェン様が自分の思い通りにならないことでかなり執着心が強くなっているようでした。あれから、アシュラスからは何もないですか?」 「あ、ああ。俺も、アシュラスが直接来て、クレームを受けたよ……」 「直接来たんですか?!ああ見えても帝王ですから、多忙なんです。そこまで怒らせて、直接クレームを受けての五体満足は奇跡ですよ……」 「そうだったのか……」 本当に厄介な奴だ。 「ウェン様がラムズと親しいとなれば、あの手この手でラムズを亡き者にしようと考えるのがアシュラスです」 ドレイクのアドバイスは時すでに遅しだった。 「ラムズも、アシュラスの前では気をつけるように」 ドレイクにそう言われてラムズは頷いたが、不安そうな表情で再びウェンを見た。 ラムズに見つめられると、その青い瞳に吸い込まれそうになる。 「ラムズはこれからどんどん強くなるし、俺もがんばるよ。だから、大丈夫だ」 ラムズはまた小さく頷いた。 「……随分、見つめ合いますねぇ。もう、アシュラスの嫉妬をかうのも時間の問題でしょう。親善試合が決闘にならないことを祈ります……」 親善試合は1週間後に予定されていた。

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