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第24話 第一部隊の試合

大帝国闘技場は戦闘専用のスタジアムだ。 観客収容人数5万人。 観客は、各星・国の要人、軍人、経済人、一般観客だ。 ウェン達の試合の前にも前座として4組の試合が行われた。 実況がつき、大画面に戦闘の全体と見どころが映し出される。 ♢♢♢ 『皆さま大変お待たせいたしました!ただいまより"大帝国軍第一部隊vs大帝国軍第二部隊"の親善試合を開始します!実況は、アシュラス親衛隊のハヤテです!よろしくお願いします!』 会場から一斉に歓声が上がった。 隊員たちは大将含む10名で戦う。 今回の大将は、ウェンの代わりにトトが務める。 勝敗は、大将が降参するか、戦闘不能になれば負けだ。 『第一部隊は元姜王国の精鋭部隊! 武闘の神シャクダイに加護を受けた屈強な武人たちです! 対する第二部隊は、アシュラス帝王が直に育成された新規部隊! 本日が公で初めての戦闘お披露目となります!』 第二部隊は全員動物の被り物をしていて、武器はこちらと同じレーザーソードとレーザーガンだ。 『アシュラス様、何かコメントをいただけますか?』 「ああ、このスタジアム完成記念式典に欠席したリィ・ウェン率いる第一部隊が親善試合の相手というのが皮肉だな。まず、両部隊、全力でぶつかって、観客を楽しませていただきたい」 アシュラスはウェンの欠席を、まだ根に持っているようだ。 両部隊がスタジアム中央に並び、挨拶をする。 それぞれが配置についた。 『準備が整いました!戦闘開始です!』 開始の狼煙があがる。 ♢♢♢ 第ニ部隊はレーザーソードを長剣にして突入してきた。 第一部隊は一斉に射撃を始める。 『第一部隊、射撃を開始しましたが、一発一発がいい玉ですね!』 「レーザーガンの連射であれだけ魔力が使えるのは訓練の賜物だね」 実況はハヤテとアシュラスの対話形式らしい。 素直に参考になる。 『あの距離からでも急所を確実に撃っています! で、す、が! 第二部隊! 全身に纏ったプロテクトがダメージを通しません!』 接近戦になり、第一部隊もレーザーソードに持ち替えた。 長剣、鞭、短剣二刀流もいる。 『おっと! レーザーソードも多種多様な使い方をしています! 鞭は新しいですね! なんかドキドキします!』 「自分のスタイルが磨かれてるのはいいことだ。迫力がある戦いになりそうだな」 各個の戦闘になった。 第二部隊も強いが、第一部隊の方が動きがいい。 レーザーソードのポテンシャルを活かしきれている。 『アシュラス様? 第二部隊は防戦一方ですよ? 大丈夫ですか?』 「さあ、どうだろうなぁ。第二部隊は実戦が少ないから。手練れ揃いの第一部隊を初戦の相手に選んだのは、やりすぎたか」 ゾウの被り物をしている第二部隊の大将は、一番遠いところでレーザーソードを構えたまま立っている。 一方、トトは最強のプロテクトをかけ、防御に徹している。 2人の距離はかなりあり、このまま第一部隊が各個撃破できれば、あっさり勝利できそうだった。 「ドレイク、そんな顛末があると思うか?」 ウェンが聞く。 「アシュラスの部隊に限って、そんな甘い話はないかと……」 そう話した時だった。 『ああ! なんということでしょう! 大将のトトが倒れています! そばには第二部隊の大将ゾウが立っています! そして、第二部隊の猛反撃が始まりました! 誰もトトのフォローに回れません! 何があったかリプレイを見てみましょう!』 大画面にリプレイが映し出された。 ゾウが技を繰り出し、あの距離を一瞬にして詰め、トトのプロテクトを破り一撃を入れている。 「あれは! 神速雷撃! リィ家の奥義だ! なぜ……!」 ウェンは驚愕した。 一子相伝の技が簡単にコピーされている。 しかもかなり強力なトトのプロテクトも簡単に破るとは、信じられなかった。 『審判による大将トトの戦闘不能が確認されました! 勝者、大帝国軍第二部隊ぃ!!』 スタジアムが歓声と怒号に包まれる。 『アシュラス様、決着について全然意味がわからないんですけど、解説をお願いできますか?』 「ああ。じゃあみんな、被り物を取って」 アシュラスがそういうと、第二部隊は素顔を出した。 全員、今フィールドにいる隊員の顔を模していた。 『え? 全員第一部隊の双子ですか?』 「こいつらは、半人半機だ。基本の肉体は培養して、不足なところは機械で補い、人工知能を搭載している。もとのデータはそこにいる第一部隊の隊員の戦闘記録を使ったよ。リスペクトの気持ちから、元データの隊員のお顔もつけさせていただきました。そこから一年かけて自主学習と訓練をしてこうなったんだよね。まあ、こういう形式的な戦闘ならまずまず使えるかな」 アシュラスはあくびをしながら答えた。 『決め手の、大将のゾウの攻撃はなんですか?』 「あれは、俺への忠誠心がイマイチ低い、そこにいるウェン隊長の奥義だよ。昔俺に一撃かましてくれたことがあってね、いつか仕返ししてやろうと思ってゾウに仕込んでおいたんだ」 『何という執念深さでしょう! まるでこの仕返しのために第一部隊が選ばれたような気すらします! さて、大将トトは担架で運ばれ、試合終了の挨拶がなされます』 隊員たちが控えに帰ってきた。 「トトのことは心配だが、みんな……よく頑張ったよ」 ウェンはそう声をかけたが、隊員たちは複雑な表情だ。 ♢♢♢ 『アシュラス様、戦闘自体は3分38秒でした。これでおしまいというのは、ちょっと観客のみなさんも不満ではないですかね』 会場からブーイングの嵐だ。 「だよな。俺もそう思う。そういうわけで、リィ・ウェン! お前にはとっておきの隠し玉があるだろ! 出せよ!」 会場がザワザワし始める。 ラムズのことだ。 覚悟はしていたが、このままだと1対10だ。 しかも10の一人一人がウェンの隊員より強い。 ラムズは天才とはいえ、実戦は初めてだ。 「あー、ウェンはそういう時間稼ぎをよくするんだよな。時間を稼いだところで何もないのに。まあいい、俺が引きずり出す。今からの対戦は、”第二部隊10名vs俺の息子ラムズ”だ!」 会場が歓声に包まれた。 ”アシュラスの息子”へ興味が、会場の熱気にかわった。 ラムズが黙ってスタジアムのフィールドに向かって歩き始めた。 「ラムズ!」 ラムズはちらりとこっちを見て軽く頷くと、そのままフィールドの中央に出た。 『おお! こちらがご子息のラムズ戦士ですね! 顔が激似! ですが、まだ少年です! あーアシュラス様にもこんな可愛い時期があったのでしょうか! 信じられません! しかも武器は木刀です! レーザーソードに触れただけても壊れてしまいそうですが、大丈夫なんでしょうか!』 大画面にラムズの顔が映る。 アシュラスファンからは黄色い声が、アンチからはどよめきが湧く。 「半人半機には感情がないから、俺の息子など関係ない。忖度なしでぶちのめせる。今日がお前の命日だよラムズ!」 『事情はわかりませんが、この様子だとアシュラス様はめちゃくちゃ個人的にラムズ戦士のことが嫌いなようです! 五万人の目の前で報復試合! それぞれ配置についたもようです! それでは! 戦闘開始!』 開始の狼煙が上がった。

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