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第一章 4

 ーー雨は激しく窓を叩いていた。 『嵐になりそうです』  それらしい雲はひとつもない茜色の空。  まさかと思いながら、何故か美華(みか)美雪(みゆ)も断り切れずに、庭師風の男と共に館に入ってきた。  それだけで一部屋ありそうな玄関ホールにも、中央の大階段にも臙脂色の絨毯が敷きつめられてる。  ホールは吹き抜けで、高い天井に大きなシャンデリアが備えつけられている。  外観もそうだが、中も古めかしいが豪奢な西洋の屋敷のようだった。 「すごっ」 「映画の中にいるみたいね」  少し間を開けて男の後ろを歩く二人は、自分たちだけに聞こえるくらいの声でこそっと言った。  階段は突き当たると左右に別れ、男は左の階段を上がっていく。  階段の壁には幾つかの肖像画が飾られていた。 「このお屋敷の人たちかな」 「わ、この女の人綺麗」  他にも女性像はあり、どれも美しい。  しかし、何故かその絵に、その絵に(えが)かれている女性に二対の目は吸い寄せられる。  雪のように白い肌、赤薔薇のような唇。アーモンド型の瞳は、吸い込まれそう濃綠。  漆黒の髪を下方で結い、黒のヘッドドレスをつけている。レースをふんだんに使った黒いドレスが、胸の辺りまで(えが)かれている。 「なんか……生きてるみたいだ」  美華はその絵の前を通り過ぎる時ぼそっと溢したが、美雪には届いていなかった。  通された部屋には、やはり臙脂色の絨毯が敷き詰められており、広い部屋にはテーブルのセット、ソファーのセット、グランドピアノが置いてある。  壁側には低いチェスト、その上には庭から摘んできたのか大きな花瓶に真紅の薔薇が生けられている。  室内に置かれている何もかもが、歴史ある高価な物のように思えた。 「私たち場違いだよね」  誰もいないというのに二人は恐縮していた。 「美雪はいいよ。可愛いワンピース着てるし。あたしなんて」  と美華は椅子に座った自分の姿に一通り視線を走らせ、溜息を()いた。  美しい紋様の描かれたテーブルの上には、花模様のティーセットが置かれ、薔薇の香りのする紅茶が注がれている。  喉が渇いているというのに、それにすら手を出すことができずに、身を固くしていた。    窓の外を見ると茜色の空はもう既になく、暗い雲で覆われていた。強い風が吹いているのか、窓枠がカタカタ鳴っていた。  やがて紅茶を淹れてから一旦部屋を出ていた男が戻ってきて、開け放たれた扉の横に立った。  二人をこの部屋に通してから紅茶セットをワゴンに載せてやって来た時、男の姿は庭師風から執事風へと変わっていた。  黒のスリーピースに白いシャツ、黒のクロスタイをしていた。執事の正装ではないが、そういう雰囲気は醸し出している。    扉の向こうにはーーひとりの美しい女性が立っていた。

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