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第二章 1

   人気ロックバンド『BLACK ALICE』は、何の前触れもなく突然活動を休止した。  二年前のことだ。  男性アイドルだけを擁する芸能プロダクション『桜ノ森スターズ』通称『SAKU (サク)プロ』において、『BLACK ALICE』はビジュアル系のロックバンドという特異なグループだ。 『BLACK』の名を顕すように、メンバーは黒のゴシック衣装を身に纏っている。メイクも無機質な人形を思わせる。 また、メンバーの名前はかの有名な『不思議の国のアリス』に(なぞ)られていた。  リーダーでギターの『マッド ハッター(Mad hatter)』。(ソウ)は、同プロダクションのアイドルグループ『なないろ』では(あお)という名で七年間リーダーを務めた後、脱退。自らグループのプロデュースに回る。そして、結成されたのが、『BLACK ALICE』だ。  同じくギターの『チェシャー(Cheshire cat)』、雨衣(ウイ)。バンドを組んでライブハウスで演奏していたところを、ソウにスカウトされた。ギターテクはソウの上をいき、普段はおちゃらけた部分もあるが、何処か掴みどころがない。 『トランプ(Card Soldier)』の(ヒビキ)は、ソウより一つ上で最年長。研究生の頃はソウの同期で仲が良かった。やはり同プロダクションで、メンバーの入れ替りの激しいパフォーマンス集団『無限(むげん)』において長くリーダーを努めていたが、ソウに誘われあっさり脱退。ドラムはそれまで触ったこともなかったが、あっという間に習得した。  最年少『三月うさぎ(March hare)』。永遠(トワ)は結成から遅れてグループ入りした。それまでベースを担っていたソウがベースを明け渡した。左上腕から左胸にかけて刺青(タトゥー)があるなど、だいぶやんちゃをした経歴がある。  そして、ボーカル。メンバー(いち)『クィーン(Queen)』。名は(ユエ)。元SAKU プロの研究生でユニットデビュー前に話が頓挫。その後は研究所も辞めているが、どういう過程かソウが連れ戻した。女声とも男声ともつかないミラクルな声で、無表情にシャウトする。 『BLACK ALICE』のメンバー五人の経歴は、一般には公開されていないが、ソウとヒビキは有名過ぎるので知れ渡ってしまっている。  ちなみに他三人はグループ内でもそれぞれの経歴は把握していないし、素顔すらもわかっていない者もいる。  すべてを把握しているのは、会社上層部とプロデューサーのソウのみだ。  詮索しない。  それがルールだった。

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