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第二章 6
唇を啄まむような、そんな優しいくちづけを繰り返す。
ゆいの背中を宥めるように擦 る。
優しくしてやりたかった。
傍にいるよ。愛しているよ。
そう伝えたかった。
でも、優しさだけじゃゆいは満足できないようだった。
背中に回した腕に更に力を込め、細すぎる身体をしきりに押しつけてくる。
唇を離すと、吸い込まれそうな濃い緑色の瞳が見つめていた。
「あお……もっと。もっと、ちょうだい」
紅い唇が乞う。
(こいつの瞳はこんな緑色だったろうか。こいつの唇はこんなに紅かったろうか)
魅入られたようにまた唇が重なる。今度は最初から激しいくちづけになった。
強く押しつけ吸い上げる。誘うように薄く開 いた割れ目から舌を滑り込ませると、向こうから巻きついてきた。
お互いを食い尽くすかのように貪り合って、そのままソファーの上に倒れ込んだ。
彼が『ユエ』である時は、フリルをふんだんに使ったゴシック調の黒の衣装を纏っている。しかし、私生活は白いシャツにジーンズという、実に素朴な格好をしている。
砂浜に座って独り歌っているのを見つけた時もそんな感じだった。
デビュー前の、いかにもアイドルという元気な男の子だった彼とは、だいぶ雰囲気が違っていた。
一旦は抜けたプロダクションに連れ戻し、ソウは自分のプロデュースしたグループのメンバーに仕立てた。
初めは『声』に惹かれた。
それから、彼の過去や繊細な内面を知り、庇護良くが掻き立てられた。
それはやがて愛に変わった。
ユエも、叱咤しながらも自分を見守るソウに気づいた。そして、自分の殻を破ることができた時、ソウへの想いにも気づいた。
お互いに求め合い愛を交わした。
少年のような、その真っさらな身体を、初めてあおが開 いたのだ。
(そうだ……ここに来る時までは、確かにそうだった。でも、今はどうなんだろう)
ゆいは性には奥手で自分から誘うことはなかった。
ここに来てから変わった。
昼夜構わず求めてくるようになった。
それは恐ろしい『何か』を忘れる為で、相手が誰でもいいのではないか、という疑問さえ浮かんでくる。
そして、ゆいの中に別な『何者』かを感じることがあるのは気せいだろうか。
(そんな筈はない)
脳裏に浮かんだものを振り切り、ボタンを引きちぎるようにして、白いシャツを開 く。
真珠のように輝く素肌が現れた。
首筋から肩に、鎖骨に唇を滑らせていく。白の中に際立って紅く見える、その場所はそれだけで、つんと立ち上がっている。
それを口に含むと、ふるっと身体が震えた。
「あ……」
紅い唇から甘い吐息が漏れた。
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