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第二章 7

★ ★  三階建てのこの洋館は部屋数も多く、四人はそれぞれ好き勝手に部屋を選んで住みついていた。時折部屋を変えていることさえあるので、実を言うと偶然遭遇することはそう多くはなかった。 (四人いるのに、まるで独りぼっちで住んでるみたいだぁ) 「ボクちゃんは、ちょっと寂しいぞ~」  などと少し大きめの声を出してみても、長い廊下の先に吸い込まれて行くだけで、あとは、しん……と静まり返っている。  ここに来てから何もすることがないウイは、一人ずっと館の探険をしていた。  今は玄関ホールを左に曲がり、この館の左翼部分の一番端まで来ていた。  そこに一つの扉があった。  どの部屋も複雑な彫りのある立派な扉がついているが、ここだけは違う。  黒い鉄の、何の飾り気もない扉だ。  上の階は端まで個室があるが、この周りにはない。また、二階三階を()き来する階段は調度頭上辺りにある筈なのだが、それもない。  外から来た客人に知られたくない場所としか思えない。 「これは興味惹かれないわけがない」  メイク道具一式を持ち込み、何があるわけでもないが常に化粧をしている。その顔ににやりと悪い笑みが浮かんだ。  ノブに手をかけ、捻ってみる。  しかし。 「あれ? 開かないじゃーん」  がっくりと肩を落とすが、諦め切れずに何度か捻ったり、観察したりする。 「鍵穴が」 (これって外から鍵が掛けられてるのか?)  この洋館の個室のほとんどが、内側から掛けられるアンティークな掛け金の鍵がついている。 「わぁお、ひょっとしたら秘密の地下室があったりなんかしてー」  自分の考えにテンションがあがる。が、ふと別な考えも過った。 「あ、でも」  (もし……内側から鍵が掛かっていたとしたら……) 「それってオレら以外にも誰かいるってことだよね?」  ぶるっと身体を震わせた。  ウイは自分の肩を抱き締めながら、その場を足早に立ち去った。  (ユエの居場所はわかる)  ウイは玄関ホールまでの廊下を戻って行く。 (あの一番大きな部屋。サロンみたいな。ピアノがあるの、あそこだけだし)  ホールまで辿り着くと、中央の大階段をゆっくりと上がった。 (ソウはどうせ、その近辺の部屋だろう。すぐにユエの傍に行けるようにーートワは? トワには二日くらい前に庭で会ったなぁ)  突き当たりで、左側の階段の方へ。 (トワと薔薇ってなんか全然似合わない)  ははっと笑いが零れる。 「…………」  壁の方から視線を感じるような気がして立ち止まった。  そこにあるのは幾つかの肖像画。 「いつ見ても気持ち悪いよなぁ。特にこれ」  黒い髪。黒いドレスの美しい女。 「なんか本当に見られてるみたいでさ」  ビシッと指で弾こうとしてーー()めた。 (なんか呪われそう)

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