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第四章 2

 トワがユエの腕に触れている。  話している言葉は聞き取れないが、二人とも笑みを浮かべていて、仲睦まじく見える。 「なんだ、あれ。オレにはあんな顔見せないくせに」   ぴんっと腹立ち紛れに指に挟んだ煙草を飛ばす。 「あ、いけねいけね」  慌てて煙草の火を足で揉み消してから拾う。 「火事になったりしたら大変だよね~」  誰が見ている訳でもないのに(おど)けたような顔をする。  しかし、すぐにその表情は消えていった。 「…………オレにも笑ってみせろよ、ばーか」  きゅっと眉間に皺を寄せて、今来た道を引き返した。 「そう言えば、二、三日前からエリザの姿見えない」  エリザにつけられた傷を見ながらユエが言った。  表情はなく、寂しいのか心配しているのかわからない。  袖を元に戻すとトワは彼から手を離した。 (ずっと触れていたい)  そう思いながら。 「迷子になるといけないから、部屋から出してないんだろ?」 「うーん。そうなんだけど。この間部屋変えて……」  ユエはサロンから出た後、何度か部屋を変えていた。  記憶が曖昧なのか、そこで首を傾げる。 「……わかった。俺も探してみるよ」 (探しても……無駄かも知れないが)  脳裏に浮かんだ言葉と、その理由(わけ)をユエに言うことは出来なかった。 「ーーソウは?」  話題を変えたい一心で、ユエの前では口にしたくない男の名前を言う。 「従妹迎えに行ってるよ」  自分でそう言った途端、ユエは不機嫌そうに表情を曇らせた。  その変化に痛みを覚えながらも平静を保つ。 「ああ。ソウの家に一緒に住んでるとかいう」 「家族と、だよ。まあ、ソウのご両親亡くなってるから、今は二人だけど。大学が夏休みになったからここに来たいって」  それぞれの事情は誰も深くは追及しない。言いたくなければ言わなくていい。それがBLACK ALICEのルールだ。  ただ一緒にここで過ごすに当たり、ソウは少しだけ自分のことを話した。 (たぶん、ユエは前から聞いていたんだろうな)  両親を亡くした従妹をソウの親が引き取った。メンバーの中には一人で暮らしている者もいれば、ソウのように実家暮しの者もいる。  独りっ子のソウは、その従妹を妹のように可愛がっていた。  そして数年が経ち、ソウの両親も事故で亡くなり、毎日帰宅するわけではないが、実質二人暮らしとなったのだ。  彼らがこの洋館に身を隠すことになった時、大学に通う従妹も一緒に来たがっていたが、大学にはちゃんと行け、というソウの言葉に従った。 「大学生なんだから、一人で生活できるだろうに」 「不服そうだな」 「別に」  と言うその口調自体がもう不服そのものであるのには、トワは苦笑いするしかなかった。 (……来たことを後悔することにならなければいいけど)

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