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第四章 3
「白兎 さんが、こっちの駅まで連れて来てくれることになってるんだって」
「ハクトさんにだけは知らせてあるんだっけ」
「そうだよ」
「なんだ、そっちも不服か」
余り変わらない表情の中から読み取る。
「別に。ハクトさんとソウは友だちだし」
白兎はBLAC KALICEのマネジャーだ。SAKU プロに長くいるソウとは当然つき合いも長い。
幾つかのユニットを掛け持つ敏腕マネジャーだったのを、BLACK ALICEが始動するのに当たり、ソウが専任にさせたのだ。二人が信頼し合っている友人関係であればこそ叶ったことだ。
「トワ、なんか生意気。年下のくせに」
「二つしか違わない」
そんな言い合いをしていると、門から黒い車が入ってきた。
「あ、帰ってきた」
途端に嬉しそうな顔になる。
普段は余り表情を表に出さないのに、ソウのことになると可愛い顔にもなる。それを目の前で見せつけられ、ちくっと胸が痛んだ。
車は石畳の中程で停まった。
恐らく薔薇の中にいる二人が見えたからだろう。
車からソウと、スーツを着て眼鏡をかけた男ーーハクトが出てくる。そして助手席からは、白地に水色の小花柄のワンピースを着た、若い女が降りてくる。
色取り取りの薔薇の中を、ユエが小走りにソウの元へと行く。トワは面白くなさそうに後からゆっくりと追った。
「お帰り、ソウ」
ソウの後ろに隠れるように立っている女のことなど目にも入ってないように、彼の顔だけを見詰める。
「ただいま、ユエ」
「おいおい、俺には挨拶なしか」
一見冷たそうなサラリーマン然とした男が苦笑いをしている。
「ハクトさん、久しぶり」
ユエは笑いもせずにお座なりに答えた。
「ほんと、相変わらずだーートワも元気そうだな」
その時になってやっとトワがやった来た。
少し離れたところで頷く。
「ーー前に話した」
とソウが一歩横にずれると、恥ずかしそうに立っている女の姿が現れた。
「実家で一緒に住んでる従妹の明莉朱 」
「アリスです。突然お邪魔してすみません。ひと月の間よろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
そうなるとユエも無視は出来ない。
「アリスちゃんて言うんだ。オレらのグループ名と一緒だね」
笑みも浮かべずに言う。
「ユエさん……あの……私、BLACK ALICEのファンで、ユエさんにお会い出来て光栄です」
BLACK ALICEに関しては、これまで事務所やライヴの時の楽屋に、血縁関係の人間が現れたことはない。
普通なら『ファン』であるなら少しくらいの恩恵はあっても良い筈だが。それぞれ事情もあり、その辺りは厳しく線引きされていた。
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