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第四章 5

「おわっ、珍しい。住人勢揃いじゃーん」  ひょこっと台所を覗いたウイが心底吃驚したように言うと 「ウイ」  入り口付近に立っていたハクトに名を呼ばれた。 「あ、ハクトさん来てたんだ~。あ、知らないコもいる」  この洋館に相応しく古い西洋風の台所だが、さすがに文明の利器は持ち込んでいた。それを駆使して、ソウとアリスがいつになく品数の多い食事を作っていた。 「ソウの従妹だよ」 「ああ。夏休みの間ここにいるっていう? ハクトさんがここまで連れて来たんだ、ご苦労様~」 「どういたしましてーーいつも、自分たちで買い出ししたり、食事作ったりするのか?」  ウイが「うーん」と首を傾げて。 「元々管理人さんがいて食料品や他諸々用意してくれてた。管理人さんの紹介で家政婦さんも通いできてくれて、食事や掃除の世話してくれてたかなー。そう言えばいつの間にか来なくなったけど」 「え」  ハクトが怪訝そうな顔をする。 「相変わらず、他人に興味ない連中だな」  その言葉に、ふふふっと意味深な笑みを浮かべる。  そのこと自体もう興味を失ったように、きょろっと周りを見渡す。 「ユエたんはご機嫌斜めかなぁ」  台所の中央のカウンターに寄りかかって、二人の様子を見ているユエに声をかける。 「別に、そんなこと…………あの二人仲良さそうだよな」  ついぽろっと溢してしまう。しまったという顔でウイから目を反らす。 「やきもちかぁ」  揶揄うような言葉に、ちっと舌打ちをする。 (あちらも面白くなさそうだな)  台所の隅から熱い視線を感じる。それはユエに注がれているのをウイだけが知っていた。  ふっと小さく溜息をついた顔は翳りを帯びたがそれは一瞬で、すぐいつものウイに戻る。 「ソウ~オレも手伝うよ」 「ウイさん、お料理できるんですか?」   意外! と言いたげにアリスが目を丸くする。 「できるよぉ。えーっと?」 「あおにぃ……じゃなかった、ソウにぃの従妹のアリスです」 「アリスちゃんか。ボクちゃん、昔田舎のクラブでお料理作ってたことあるだ。お金なくってさー。そこで働きながら演奏させて貰ってたんだよね」 「ウイさんにそんな時代が」 「ウイ、そんなベラベラと」  窘めたのはハクト。今でもBLAC KALICEのマネジャーだと自負している彼は、メンバーの過去や私生活を明かさないというスタンスを崩したくなかった。 「いいじゃん、別にーーどうせ、もうBLACK ALICEは復活できない」  あとの言葉は、独り言のような呟きだった。 「ウイ……」  そんなことない、そう言ってやりたかった。しかし、今の彼らにそれを言うことは出来なかった。    

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