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第四章 7

「可愛いな~ましろ」  実は先程からアリスの膝で寝ているましろをユエは撫でていた。  もしかしたら、それで機嫌がいいのかも知れない。  機嫌がいいーーアリスにはそう見えていた。 「ユエさんほんとに猫好きなんですね。ユエさんのお家にもいらっしゃるんですか?」 「ううん、うちにはいない。でも、ここに来てから、トワが連れて来てオレにくれた」 「トワさんが? なんか意外ですね」 「そうだな、オレもそう思った……トワがオレに優しくしてくれたりとかほとんどないもんな」  BLACK ALICEについては秘密が多い。音楽雑誌に写真が載ったりはするが、他メンバーのことを語る者はいない。  ステージのイメージでそう思ったアリスだが、それは実際イメージ通りということらしい。 「黒い綺麗な子猫で、エリザって名前つけたんだよ」  昼間ちらっと口にしたのは猫の名前だったらしい。 「でも最近見かけないんだよね。オレの部屋から出ないようにしてたんだけど」 「そうなんですか」 「そう……だからね、アリスちゃん。ましろをしっかり見てなくちゃ」  ユエはにこっと笑ったと言うのに、アリスの背筋には冷たい何かが走ったような気がした。  自分の内に溜まった重苦しい何かを全て吐き出すように、大きな溜息を()いた。 (はぁ。なんだ、あれ。ソウとユエがヤってたソファーに三人で座ってるって。アリスちゃん、絶対ソウのこと好きだろ)  ウイはカクテルグラス片手に別のソファーに座り、『キス・イン・ザ・ダーク』の赤に透かしながら皆の様子を眺めていた。と言っても、トワはウイから『カミカゼ』を受け取ると、早々にバルコニーへ出て行った。  自然、視線は三人の座るソファーへ。 (最近は部屋移動したから昨日今日でないだけましだけど。ーーソウもユエも、アリスちゃんがソウを好きだって気づいてると思う……)  度数高めのカクテルを飲みながら少しも酔えず、背筋を凍らせていた。 (地獄絵図にしか見えん)  やがて、ハクトが三人のところへ行き、ソウが席を外した。  そこでやっとウイが息を()いた。 「どうした、お疲れか」 「ハクトさん、ありがとう」  ハクトがウイの隣に腰を下ろすと、思わずに口から零れてしまった。とりあえず、彼のお陰で地獄から逃れられたわけだ。 「え? 何が」 「や、何でも」  勿論ウイの胸の内をハクトがわかる筈もないし、言うわけにもいかない。ハクトは怪訝そうな顔をしたがそれ以上は突っ込んでこなかった。 「それにしても……ウイにこんな特技があるとは思わなかったよ」  爽やかな緑色のコリンズ・グラスを赤いカクテル・グラスに軽く合わせて、カチンと鳴らす。

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