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第六章 6
ウイは唇を離し彼の両腕に手を掛けた。それを支えに片膝をトワの太腿の上に乗せる。
ぐっと距離が近づく。
近くに見える顔には先程の驚きは既になく、いつもの無表情だった。
左の指先は、半袖のTシャツからちらりと覗く刺青 に触れていた。少し指を動かし袖を上に上げれば、その続きが見えた。
薔薇の蔓 のような紋様。
ごくっとウイの喉がなる。
(一度だけ。一度だけでいい……)
「……タトゥー全部見たい……脱がしていい?」
トワの耳許で掠れた、驚く程艶のある声がした。
声に従い両腕が上がると、震える手でシャツを取り払う。
パサッと小さな音がベッドの脇でした。
シャツの下には何も着ておらず、すぐにタトゥーの全貌が現れた。
彼らにはそれぞれ秘密が多く、メンバーであっても明らかにされていない。私生活での関わりもほとんどなく、ライヴの控え室も個別で着替えているところも見たことがなかった。
ライヴ中に感極まって上を脱ぐメンバーもいたが、トワにはそれもなかった。雑誌の取材などでもタトゥーのことには触れていない。
しかし、ウイは過去にそれを見たことがあるのだ、一度だけ。
(ああ……これだ。あの時目にした)
薔薇の蔓の紋様は左上腕から肩、そして左胸にまで達している。蔓は心臓を食い破るかのように伸び、そして心臓の真上には真っ赤な薔薇がひとつだけ咲いている。
それは、ユエへの愛を象徴するみたいに。しかし、このタトゥーはユエに会うより前に彫られたもので、未来を予知していたかのようだ。
ウイはその深紅の薔薇に口づけた。
愛おしげに何度も何度も口づけ、そして、歯を立てる。
「……っつ」
トワの口から呻き声が漏れる。
愛おしいが、憎いその薔薇を、ユエへの想いを消し去りたくて、歯形がつくほど強く噛んだ。
「このっ」
されるがままだったトワも煽られる。
ふんわりと柔らかな青のグラデーションカラーの髪の中に手を入れて引っ張り、ウイの顔を上向かせる。
吸血鬼のような血に濡れた口許が見えた。
「よくもっ」
ニッと笑うその唇を塞ぎ、噛みつくように口づける。
(いいんだ、それで。オレのことを憎んでくれてもいい。めちゃくちゃにしてくれて、いいんだ)
身体を反転させられ、ベッドの上に倒される。白いシーツの上に青い髪が広がった。
(どうせ、もう先はない)
透け感のある白いブラウスのボタンが外されていく。下には黒のタンクトップを着ている。
きらりと胸許でネックレスが光った。
トワの目にもそれは映ったが、欲の前にはすぐに意識の外に閉め出された。
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