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第六章 9
恐らくソウだろうということはわかっていた。
扉を開ければ、やはり服を着替えたソウが疲れた顔をして立っていた。
「……ウイ」
思わぬ相手が目の前にいたことに、ソウの顔に訝しげな色が浮かんだ。
それだけではない。
ウイの格好が、今シャワーを浴びたばかりという風情なのだ。
(これは意外な組み合わせ……この二人が一緒の部屋を使ってたことなんてあったか? ウイはともかくトワは、誰も寄せつけない感じだったが……そう、ユエ以外は)
そこはソウもなんとなく察していたところだ。それから、今晩ユエとトワの間にあったことも。
(まあ……あんなことあった後だから。面倒見の良いウイのことだ、フォローに回っていたのかも)
「どうか、したか?」
自分の顔を見詰めたまま何も話さない男にウイのほうも訝しむ。
「いや、トワが……どうしているかと」
「ああ」
扉を大きめに開き少し横にずれると、ウイの脇からトワの姿が見えた。
ベッドを背に絨毯の上に踞っている。
こちらもシャワー後なのか、上半身裸で頭にはタオルが掛かっていて顔は見えない。
「入るか?」
「う……ん」
どうするか考えながら、ふと視線を落とすと、バスローブの下から覗く白い足が目に入った。
「……え、ウ」
『ウイ』と言い掛けて詰まらせる。
これは、言ってもいいことなのかと。
バスローブの裾は膝の辺りまであり、そこから足首までに掛けての内側に紅い筋が見えた。それは見る間に一筋から二筋に増した。
(これは……)
一つの想像が脳裏を過った。
(ウイとトワが?)
言葉としては過ったが、絵としては結ばない。それ程予想外のことだった。
「ソウ?」
またも固まっているソウに呼び掛ける。
(いったい、なに……)
「……あっ……」
不審に思いながら彼の視線を追いかける。
視線の先は自分の足にあった。
それを見てから初めて感じた。股の間を何が流れて行く感触を。
(ちょっと無茶しちゃったかぁ)
少し開き気味だった足をさっと合わせ、どうにか隠そうとするが。
(無理か……流石にこれは気まずい)
内心恥ずかしさはあったが、それを出したくはなかった。
何も言わないソウに向かって、ニッと笑う。
「心配するな、トワのことはオレに任せろ」
「あ、ああ」
口角は上がっているのに眉間には皺が寄っているという、少し奇妙な顔になっていることにウイ自身は気づいていないのだろう。
いつも上手いこと本心を隠しているウイにしては珍しく、それだけに彼の気まずさが感じられた。
「わかった」
その一言で何も見なかったことにした。
「そっちはどうなんだ? ユエは大丈夫なのか?」
ウイの顔は明らかに安堵したものになった。
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