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第六章 10

「ああ。シャワー浴びさせて着替えもさせた。やっと落ち着いて、今は俺の部屋で眠ってる」 「そっか……」 (それだけか?)  トワの話を聞いて内心そう思った。 (どうせ、そっちも……)  自分たちと同じことをしていたんだろうと。自分たちと違って『愛』のある……。  そう思うと意地の悪い気持ちが湧いてきた。 「ユエには……優しくしてやったんだろ?」  意味深な眼差しで問いかける。  一瞬はそのままの通りに捉えていたソウだが、すぐにその問いの意図に気づいた。 「そ、だな」  気恥ずかしいような顔になった。その顔を見たウイもウイで、なんだか恥ずかしくなり、馬鹿なことを言ったと後悔した。 「あー、ユエのことはおまえに任せるよ」 「ああ。トワをよろしく」  ソウがゆっくりと背を向ける。  その背をウイの切ない声が追いかける。 「……トワのこと、余り怒らないでやってくれな。あいつ、ユエのこと……」  そこでやめればいいのに。 「おまえがもっと早く来ていればこんなことには……いや」  恨みごとまで言いそうになり、途中で止めた。 (今夜は、ほんと。自分を制御できないな……)  ふるっと頭を降ってから軽く笑う。 「じゃ……」  ウイが扉を閉めようとすると、 「あ」  何か忘れ物をしたかのようにソウが振り返った。 「ウイ、アリスを……」 「えっ? アリスちゃん?」 「……いや、なんでも」  ソウはソウで、言いたいことを飲み込んだようだった。  再び背を向けて歩き出した。  扉を閉じるとウイは浴室に戻った。  そこに常備されているタオルで血の筋を拭った。  ベッドの脇に脱ぎ捨ててしまっていた為、実は下着も着けていなかった。 (せめてパンツ穿いてればなぁ……)  はぁと大きく息を吐いた。  部屋に戻ると、まだベッド脇で踞って項垂れているトワの隣に座る。  タオルの影から見える目は、眠っているように閉じていた。  手を伸ばそうとして引っ込める。  恋人同士ならその肩に寄り添えるものを。 (オレたちはそんなんじゃない)  何も言わずただ静かにトワの横顔を見ている。 (でも……は自分を見てくれていた、『ユエ』の代わりではなく。それだけで嬉しいんだ……。もう……何も望まないよ……ただ、傍にいさせてくれ……最期の時まで) 「ーーソウはなんて?」  突然トワが口を(ひら)いた。目はまだ閉じたまま。  じっと見ていたと知られたくて、真正面を向く。 「ああ、トワがどうしてるかってーーオレが出たから、だいぶびっくりしてたみたいだけど」  いつもの調子でしゃべろうとして何処かぎこちなくなる。 「だろうな。ーーそれにお前のその格好」 「ああ……オレ、出ないほうが良かったか……」  いかにも情事の後のような血の筋……先程の気まずさが甦る。トワに見られなかったのは幸いだった。  

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