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第六章 12
それから砂浜からは離れ、海沿いの道を歩いていた。
陽は暮れ、辺りは更に閑散としている。
喉の渇きと空腹を感じた頃、少し先にけばけばしいネオンライトに彩られた店を見つけた。いかにも寂れた町の安い酒場か何かのように思えた。
一見十代には見えないだろう。仮に見えたとしても酒を飲まなければ平気なのではと思い、中に入って行く。
そこはライヴハウスのようだった。
外のしんとした雰囲気とは裏腹に、思いの外熱気に溢れている。
ステージは今、演奏真っ最中だった。
激しい音、激しい歌声。
地元のアイドルでも歌っているのかと思えば、予想外のヘヴィメタルだった。
しかも。
(上手い?! 特にギター)
自分でもギターやベースを演奏する永遠は、それなり耳も持っている。とにかくギターのテクが凄いと感じた。
興味が湧いた。
熱狂する人混みの中に入り込んで、もう少し近くで、演奏する四人組を見た。
(女?!)
ギターを演奏するのは、肩に切れ目の入ったトップス、黒いミニスカートに、黒のショートブーツの少女だった。いや、実際には少女かどうかはわからないのだが。
化粧は派手目。それでもかなりの美形だということがわかる。
背は高いが、折れそうな程細い。
そんな女がパワフルな演奏をしている。
永遠はすっかりその演奏に魅了され、終わった後も呆然としていた。
観客たちは演奏が終わると、思い思いに飲み物や食べ物を手にしてわいわいと楽しげにしている。
この店内にいる者は皆仲間的雰囲気があり、見知らぬ永遠にも『はい、どうぞ』と飲み物を渡す。
喉が渇いていたのもあって、何も考えずにそれは一気に呷った。
(これ、酒か!)
と気がついた時にはもう眠気が襲ってきていた。
「……ねぇ、大丈夫? もう閉店だよ……動ける?」
意識の外側でそんな声が聞こえる。
掠れたような女の声……のように思えた。
「……じょーぶ……」
そんなふうに答えて立ち上がろうとしたーーーー。
「……そう、そうなの……それは悲しいよね……」
「いいよ……ゆっくり眠って……」
ふわふわと柔らかく温かな感触がする。
時折意識が浮上しては、誰かが優しく話しかけてくる。
相手は誰なのか。
懸命に目を開けようとするが、うっすらと見えるのは微笑む口許だけだった。
(……天使? いや……女神か……俺、死んだんじゃない……よな……?)
完全に覚醒した時、永遠の目に映ったのは見知らぬ部屋の天井だった。
「おはよう」
清潔な白いシーツの柔らかなベッドの上に、半身を起こす。
白いレースのカーテンが眩しくて目を細めた。
声の主がちょうど遮光カーテンを開けたところだった。
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